老婦人・エマとの出会い 7

 また恐ろしい夢を見た。


 船に異常が発生し、一家が全滅するという内容だ。前に見た悪夢とパターンは似ていたけど、災難に見舞われたのは、僕の船でなくマリーの家だった。


 リビングで父さんが救援のため、せわしくキーボードを操っている。その脇で僕はマリーと電話をしていた。

 刻々と悪化する船内の状況を、彼女は悲痛な声で伝えた。息が苦しくなっていく、どんどん寒くなっている、ミリーが昏睡状態で返事をしなくなった――。助けに行きたかったけど、向こう側のハッチが開かずダクト内までしか進めない。


 受話器がなにかにぶつかったような大きな音が聞こえた。彼女が手から落としたらしい。

 僕は必死で呼びかけた。彼女はなにか言っていたけれど、声が小さいのか受話器から遠いのか聞きとれない。

 やがてそれもやんだ。母さんが僕の肩に手を置き、無言でかぶりを振った。父さんが、もう生存可能な酸素濃度を下まわっている旨を告げた。


 マリーが死んだ――

 僕はへなへなとその場にへたり込んだ。


 お葬式をあげましょう、と母さんが言った。不吉な響きに手足が粟立つ。昔、もの心がつくかどうかの年ごろに繰り返し聞いた言葉。

 まだなにもわからなかった幼い僕とマリーは、祖父母とは順に次々といなくなっていくものだと思っていた。今やその順番がマリーにおよんで――


 僕は彼女の死を認めたくなくて、嫌だっ、と首を振って叫ぶ。

 そこで目が覚めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る