夏と花火と初めてのキッス 11

「――それで、結局携帯にかけたんだけど、場所がわからなくて別々にログアウトしたんだ」


 僕はダイニングでテーブルの定位置に着いていた。母さんの淹れてくれたココアをすすりながら両親に報告する。


「ミリーが、手をつなごう、って追いかけてきたのがいけないんだ。終わり近くまではちゃんと兄ちゃんたちと一緒にいたし、時間も守るつもりだったんだ」


 隣のグミは、向かいあう母さんたちに懸命に言いわけをした。今夜の不始末の扱いが今後の外出等に響くだけに必死だ。僕も一蓮托生なので他人事ではないんだけど。


「去年と同じことを繰り返したのは問題ね」

「だってミリーが」

「手ぐらいつないであげればいいでしょう」

「そんなのかっこ悪くてやだよ。あ、兄ちゃんはマリーとすごい握りあってたよ」


 ぶほっ、と僕はココアを吹きそうになった。半分、対岸の火事のつもりで油断していた。


「あら、そうなの、クコ」

「あと、なんかね、ふたりで同じ指輪つけてた」


 母さんたちは意外そうに顔をほころばせた。グミっ、と僕は告げ口まがいの弟を叱る。


「ペアリングをして手をつないだの? ずいぶん思いきった行動ね」

「いや、それは、彼女が……」


 弁解しようとしたけど、祭でのことが思い出されて僕は口ごもった。知らず知らず、左の薬指を親指で確かめていた。もちろん現実の船では指輪はなかった。


「絶対、最後の花火で兄ちゃんたちキスしたよ、ってミリーが……いだだだだ!」


 僕はグミの頬をつねりあげた。こいつら見てたのかっ。


「俺が言ったんじゃないっ。ミリーの予想だよ。それともほんとにしたのかよ」

「するわけないだろっ」されただけだ。


「そうね、まだ中学生だものね」


 母さんたちはうなずいている。彼女や叔母さんの話を聞いたら腰を抜かしそうだ。実際、僕はそうだった。


 グミの処分は、僕と彼女の話でほっこりしたからというわけでもないのだろうけど、約束を守ろうとした努力は認められるとして不問になった。巻き添えを食わなくて僕もほっとした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る