クコは立ちあがる 4

「だけど、現実の生活だって事故で亡くなるリスクはあるよね? コクーンの夢はリアルの延長なんだ。仮想世界だからといって特別扱いはない、現実同様、身の安全に気をつけて生活すれば概ね危険は回避できる、そう割りきって過ごすしかないよ」

「その理屈だと、コクーンを使わないのが最も確実に安全を確保できるということになるが?」父さんの突っ込みに僕は窮した。「今にして思えば、おまえのおじいちゃんたちが相次いで若くして亡くなったのも、ウラヌスがなんらかの影響をおよぼした可能性が考えられる」


 おじいちゃんたちは自然死だったと説明したのは父さんじゃないか。

 事前に用意したシナリオにない追及に、僕は反対意見を述べられなかった。父さんの頑なな姿勢は揺るぎそうにない。

 だけど。

 それでもその牙城を崩さなくてはならないんだ。

 あの日、あの夜、見た母さんの泣き顔のように、伯母さんも、ミリーも、そしてマリーも泣いているかもしれない。宇宙船ふねに、乗員ぼくらに、コクーンの夢そとのせかいは必要にして不可欠の場なんだ。こんな暗くて、つらくて、悲しいだけの生活はもう、たくさんだ。

 僕はコクーンの必要性を唱え続ける。


「リスクを言いだせばきりがないかもしれない。だけれど、僕たちは結局、ウラヌスに頼らなくちゃ生きていけないんだ。食べものの製造も、飲み水の供給も、室温の調節も。息をすることさえウラヌスの制御に依存しているんだ」


 僕は頭の片隅で、船が機能停止する悪夢を思い出していた。


「この船で生きる以上、ウラヌスを信頼するしかないじゃないか。コクーンとハッチだけを例外にしたってしょうがないよ」

「大人には子供を、船団を守る義務がある」

「その結果、みんな心がぼろぼろになってる。こんな状態じゃなにが守られてるのかわからないよ。僕たちにはコクーンが必要なんだよ」

「だが――」


 いくら頑張っても父さんの反論はやまない。もう、あのことに言及するしかなかった。


「父さん、生意気なこと言ってごめんって先に謝っておくよ」


 僕は一度うつむいて宣言し、顔を上げた。

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