蝕まれる家族 3

「ふんっ。何百年、なにも起きずに航行してると思ってるんだ。今夜に限って起きるものか」

「船団の規模はなんらかのアクシデントで四分の一になったわ。残った船にもハッチのトラブルが起きている」

「だめなときはなにをやってもだめだ」

 

 吐き捨てるように言って、父さんはグラスをあおった。


 なんて無責任な言い草なんだろう。父さんらしくもない暴言だ。こんな姿、見たくなかった。


「あなたとも思えない言葉だわ。私と飲みに行ったときにそんなに飲んだことないでしょう」

「ひとりのときだってないさ。それだけ飲まなきゃやってられないということだ」父さんは逆さまにしたグラスの雫を口で受け止めて、母さんに差し出した。「おかわりを持ってきてくれ」

「水を汲んできて頭からかけてあげましょうか?」

「ははっ。そんなかりかりするな。君も飲んだらどうだ。このところの憂さが晴れるぞー」

「ふざけないでっ」

「融通がきかない奥さんだな。なら自分で行く」


 父さんはよろめいて立ち上がりキッチンへ行こうとする。その手首を母さんがつかんだ。

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