忍び寄る不穏はまず子供たちに 5
その日の朝、僕は無性に眠たかった。
この頃、寝つきが悪い日が続いている。昨晩は特に遅かった。テーブルに着いたときも頭が半分眠っていた。出されたパンを手にするのも億劫だった。
今朝もグミが叱られていた。やれ食べ散らかすな、やれ食器の音をたてるな、やれ足をぶらつかせるな。
キッチンテーブルの前でコーヒーを淹れながら、母さんはグミを見張る。
このところやけに当たりがきつい。それに対するグミの態度も露骨に反抗的で、注意されたことをわざと繰り返す。その都度、母さんが叱責。そばで聞かされるほうはたまらない。
「クコ、あなたも早く食べなさい。一番起きるのが遅いんだから。まったく、毎日毎日――」
「昨日、全然寝られなかったんだよっ」
思わず大声をあげた。眠いところに小言の矛先が向いてかっときた。
「その口のききかたはなんですかっ」「もう、朝からうるさいなっ」「クコっ」
母さんが叱りつけ、僕は反発し、父さんの声が飛ぶ。
「なんだよ、父さんまで。グミは叱らないくせに」
「今のは母さんに対するものの言いかたじゃない。謝れ」
座っている父さんと立っている母さん。両者が険しい顔で僕を見すえている。
いつもの僕なら謝っていただろう。いや、そもそもこんな態度はとらない。だけど今朝はやけにいらだった。反抗心しか湧かない。
「こっちは眠いのに、朝っぱらからがみがみ言うの聞かされたら気分も悪くなるよ」「口答えするな。母さんに謝るんだ」「父さんは教育に口出ししないんじゃなかったのかよ」「そんな口のききかたを父さんにするんじゃありません」「ふたりして僕を悪く言うんだ。ずるいよ」
交互に叱咤する両親を僕はなじった。
幼稚な抗弁だと思った。言うにこと欠いて中三の吐くセリフか。
それでも本心だった。悔しくて言わずにはいられなかった。
「もう食べなくていい。勉強もしなくていい。部屋で反省していろ」
父さんに命じられて僕は無言で立ち上がる。椅子も戻さず足を踏み鳴らして自室に向かった。
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