コクーン禁止令 4
「クコ……」
弱々しい声だった。涙声のように悲しそうな響きで彼女は出た。
「そっちでもコクーンの話があったんだ」
「うん……。お父さんたちが、コクーンは危険だから使っちゃだめだって。クコに会えないなんて嫌だって言っても聞いてもらえなくて」
僕のように諾々とは受け入れなかったんだ。
いや、僕だって受け入れたわけじゃない。抗っても無駄と、変にものわかりがよかっただけだ。彼女は違った。精いっぱいの拒否を示した。
「どうして。どうしてこんなことになっちゃうの。いきなりこんな話ってないよ」
「僕もさ。信じられない」
「現実の行き来ができなくなって、次はコクーンもだめだなんて、どういうこと?」
まるで僕がコクーンの使用制限を決めたかのような口ぶりで彼女は訴えた。
「まったく理不尽だと思う」僕相手で気が済むならと僕は静かに相槌を打った。
「ミリーはめそめそ泣いて部屋に閉じこもってる」
「うちもグミが大変だよ」
「クコは平気なの?」彼女の問いに僕は、まさか、と答えた。「冷静なように聞こえる」
「実感がないだけだよ。いつものように別れたのに、当分、君の顔を見られないかもなんて」
「ほんと。信じられない。次に会えるのっていつになるんだろ。何カ月も先だなんてやだよ」
何カ月では済まないかもしれない。その想像は恐ろしくて口には出せなかった。
「クコに会いたい。今すぐ会って顔を見たい。直接、声を聞いて安心したい」切なげな声が受話器から漏れる。「こんな気持ちのまま別れ別れにさせられるなんてひどいよ」
うっ……うう……、という彼女の嗚咽が聞こえた。
感受性の高い子なので、読書や映画で泣くことはある。一方で元来は気丈なため、つらいことではめったに泣かない。とても強がりで、弱いところは見せたがらない。その彼女がこらえきれず涙している。
彼女は対峙したんだと思った。
僕と会えなくなることの意味を真正面から受け止めて苦しんでいるんだ。僕のように頭のなかの恐怖から逃げたりせず。僕よりよっぽど勇敢だ。
彼女のむせび泣く声を、僕は胸が詰まる思いでじっと聞いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます