もの憂げな翌朝 3

 通路に出てハッチの前の叔父さんの様子を見に行った。昨日と同様にパネルのカバーを外して作業をしていた。壁面の内部とタブレット端末を交互に見ては何度もため息をついている。


「叔父さん、どう? 直りそう?」

「皆目見当がつかん」僕の顔も見ずに叔父さんは短く答えた。周辺には工具やネジやメモが散乱している。なにか手伝えたらいいんだけど、僕にできることはたぶんなにもないだろう。邪魔をしないようにリビングに行くと叔母さんが電話をしていた。


「あ、クコが来たわ。代わるわ」


 そう言って受話器を渡してきた叔母さんは、洗いものでもあるのか、赤茶色のシニョンを整えながらキッチンへ行った。


「クコ、変わりはない?」


 電話は母さんだった。声が普段より固い感じだった。いつもどおりだから大丈夫だと答えたけれど、母さんは不安を隠せないようだった。父さんは向こうで調べ続けているそうだ。グミは学校に行ったけど、昨日、今日と落ち着かない様子だったらしい。今後のことを父さんと相談しているとの話を聞いていたときだった。


「開いた!」


 突然、大声が聞こえてきた。通路のほうからだ。「開いた、開いたぞ!」との叔父さんの声が船内に響く。血相を変えて叔母さんがキッチンから飛び出した。


「母さん、切るよ」


 叩きつけるように受話器を壁に戻し、僕は叔母さんとともに通路へ急いだ。そんな。まさか。


 僕たちが目にしたのは、叔父さんが興奮気味に両手を掲げている姿と――あれだけ固く閉ざしていたハッチの開いている光景だった。

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