9 もの憂げな翌朝
もの憂げな翌朝 1
マリーの家で朝食を食べる機会はそう多くない。夕食は頻繁だけどこの時間帯は久しぶりだ。
「でね、お姉ちゃん、寝てるときにあたしを蹴ったのよ」
「あんただっていつの間にか布団全部取ってたでしょ」
「そんな寝相悪くないし。お姉ちゃんてば寝言も言うよ。『まだ食べられるよお』って三回は言った」
「寝言はあんたのほうじゃない。『グミのエッチ』ってにやにやしてるの見たんだから」
「あたしやっぱりひとりがいいー」
「小さい頃、怖い夢見たからって私の部屋で寝させてって泣きついてきたくせに」
「そんなの忘れましたー」
あいも変わらずこの姉妹は朝から元気にやりあっている。口がたつ者同士なので、なにか揉めることがあるとすぐに、お姉ちゃんはどうだのミリーはこうだのと応酬を展開する。昔のミリーはお姉ちゃんっ子で、いつもマリーのあとをくっついて歩いていたんだけどな。マリーのやることをなんでも真似してたっけ。食事と言いあいで口をせわしなく動かすふたりを眺めて、叔母さんの朝食というめずらしい食事をいただく。
――いや、それはめずらしい機会ではなくなり、今日からありふれたものになるかもしれないんだ。彼女たちの言いあいを見ていると、いつもと変わらない生活に身を置いているような錯覚に陥る。
実際は深刻だ。寝ぼすけの僕が早朝に目が覚めてしまったように、快活で大食漢の叔父さんが難しい顔でもそもそと口を動かしているように、叔母さんがにこやかな面持ちを絶やして夫を見ているように。僕たちは大きな局面と対峙している。この姉妹のいがみあいも、あるいは恐れに対する懸命なあらがいであり、場を和ませようとしての健気な振る舞いなのかもしれない。彼女たちなりに気をつかっているのだと。そう考えると他愛のないやりとりが妙に寒々しく感じられてくる。
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