コクーン禁止令 6

「兄ちゃん、マリーが代わってって」


 しばらく見るともなしに眺めていたグミが受話器をよこしてきた。さっきよりずっと表情が明るくなっていた。ミリーと話せて気が済んだらしい。ケンカ友達のようにしょっちゅうやりあっているけど、なんだかんだいってこのふたりも本当は仲がいい。

 電話を代わると彼女の残念そうな声が聞こえた。


「もっと話したいんだけど、お母さんがいい加減切りなさいって」


 時計を見ると遅い時刻になろうとしていた。もうそんな時間なのかと驚いた。彼女と話すとあっという間に時がたつんだと気づかされる。こちらがわでも、視界のはしで母さんの圧力めいたものが漂いはじめていた。教育的・文化的な観点から、僕たちの船団では、深夜の長電話は好ましいものではないとされている。今夜はしかたない。


「また明日学校で、あっ……」言いかけて彼女は口をつぐんだ。ついくせが出たようだ。気まずい空気が流れる。

「明日も話そう」努めて明るいトーンで僕は言った。

「うん、いっぱい電話しようね」彼女も調子を合わせて応じる。


 今、この状況下では明朗に振る舞うことは義務だ。暗いムードはより暗い影を呼び寄せる。明るく、ただひたすら明るい振りをしなければならない。


「クコ」密やかな声で彼女がささやく。「大好きだからね」


 再び僕の顔が赤く染まる。恥ずかしいことをこの子は毎度、平気で言ってのける。

 いたずらっぽい笑いを置き土産に彼女は電話を切った。赤い顔で少しの間立ちつくす僕に、母さんが、どうしたの、と怪訝そうに聞いてきた。

 僕は黙って受話器を戻し部屋へと逃げ込んだ。

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