第5回 屋形船スタッフ

 日帰りから長期滞在までを含む多くの観光客を取り込み、また多くの職員を有していた旧・新西之島市(現・小笠原村新西之島)。人数の多さから生じる多様な客層のため、ジャパリパーク内にはメインである動物園とは一見関係のないような娯楽施設も存在していた。

「確かにジャパリパークに関係ないかもしれませんが、お客様はパークが大好きな方ばかりでした」と語るヒロサワさんも、その一つである「ジャパリパーク屋形船」のスタッフをしていたヒトだ。


・ジャパリパークの人気とコラボレーション

 サンドスター及びアニマルガール(以下、フレンズ)が発見されてジャパリパークが開園して以降、その物珍しさと経済的影響力から多くの企業がジャパリパークとのコラボレーション企画を立ち上げた。

 当時の記録によれば、フレンズのブロマイドやクリアファイルなどのグッズがコンビニやコラボカフェに登場したとのことで、若い女性の姿をしていることもあってさながらアイドルのようであった。また、動物に興味を持ってもらうきっかけとしてフレンズの写真を展示した動物園や水族館も多かった。

 フレンズの人気は留まるところを知らず、飲食チェーン店や服飾メーカー、更にはダーツ用品と、あらゆるジャンルの企業がジャパリパークとコラボしていた。パークが閉鎖した現在からは想像できないほどの熱量だったことが伺える。

 ヒロサワさんが勤務していた屋形船営業の企業も、ジャパリパークとのコラボとしてパーク内での営業を開始した。


・パークの絶景を回って

 サンドスターの影響により、新西之島にはその位置と面積からは考えられないほどの多様な気候帯が存在していた。そのため、一時間ほど船で移動するだけでも様々な景色を楽しむことができた。

「普段見れないような綺麗な風景をたくさん見ながら宴会をするなんて、日本広しといえどもここでしかできなかったと思います。市の中心部にある港から出発して岸壁の見える絶景ポイントまで行って戻ってくる二時間のコースが人気だったのですが、毎日のように乗っている私も大満足でした」

 動物園に注目して忘れがちであるが、ジャパリパークは地球上の多様な環境を一度に体験できる場所でもあったのである。

 

・フレンズと屋形船

 ジャパリパーク内ということもあり、少数ではあったがフレンズとの交流も行われていた。職員の宴会に参加して客として乗船していたフレンズも当然いた。

「でも、一番盛り上がったのはPPPとのコラボですね」PPPとはヒロサワさんが勤務していた当時ペンギンのフレンズ4名で結成されていたアイドルグループで、ヒトとフレンズ両方から絶大な人気を誇っていたという。

「フンボルトさんとジェンツーさんに録音していただいたアナウンスを放送したり、PPPをイメージしたデザートのもんじゃ焼きを提供したりしていたのですが、ファンの方々も大喜びでした。そのコラボメニューがチョコミント味だったんですが、ついでに乗船場の自動販売機のチョコミントアイスも買う、みたいなブームも何故か起きました」


・働くヒト、そして『フレンズ』

 パーク内で屋形船スタッフとして働いたヒロサワさん。フレンズと関わる仕事というよりは、景色目当ての観光客やパーク内職員の宴会など、ヒトの相手をすることの方が圧倒的に多かったという。

 せっかくジャパリパークにいるのに勿体ないと言われることもあった。しかし彼女にとってそれは決して残念なことではなかった。

「パークの好きなところを語り出したり、テーマソングを歌い出したり、あの場にいたのはジャパリパークのことが大好きなヒト達でした。パークを支えてくれたヒトも、全力で楽しんでいたヒトも皆、『フレンズ』と言っていい存在だったと思います」

 楽しそうに船内での想い出を語るヒロサワさんも、たしかに「フレンズ」であったのだということが伝わってくる。

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