68『部活の帰り道 乃木坂にて』

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・68   






『部活の帰り道 乃木坂にて』



 話しは前後しちゃうんだけど、『風と共に去りぬ』を観た部活の帰り道、乃木坂に立ったわたしは夕陽を浴びてスカーレットオハラみたいに背筋を伸ばして歩いていた。

 ヴィヴィアンリーがパン屋さんのウィンドウに映って……どう見てもジュディーガーランドの(それもガキンチョのころの)セーラー服。

 どうも、この鼻がね……と、凹みながら思い出した。


 もうい~くつ寝ると、お正月……は、とうに過ぎちゃったけど、わたしの誕生日!

 そいでもって、わたしの記憶に間違いがなければ……。

「ねえ、潤香先輩の誕生日って?」

 さっさと前を歩いている里沙に声をかけた。

「今月の十七日」

「やっぱし……」

「そうよ、まどかの誕生日と重なってんの」

 そのとき、坂の下の方から夏鈴が、携帯を握って走ってきた。

「ねえ、話しついたわよ!」

「夏鈴て、普通に歩くとトロイのに、携帯で話しながらだと速いんだね」

 里沙が冷やかした。夏鈴はおかまいなしに喋り続けた。

「半額でいいって、お父さんが話しつけてくれてさ。そんかわり、あさって、自分でとりに行かなきゃなんないんだけどね、部活終わってからにするね。お誕生日も大事だけど部活もね。なんたって三人ぽっきりなんだからさ」

「あ……なんだか、気を遣わせちゃって。ハハ、もうしわけないね」



「「なにが……?」」



 二人がそろって、言った。

「え……わたしのお誕生祝いのことじゃ……アハハ、ないんだよね」

「あたりまえでしょ、わたしも夏鈴も去年だったけど、なんにもしてもらってないわよ」

「だって、そんときゃ、まだ知らなかったんだからさ」

「そんなこと言う?」

「入部の自己紹介で言ったわよ」

「え、ええ……そうだっけ」

「ちゃんと記録してあるわよ。わたしってアドリブきかないからさ」

「夏鈴は覚えてないわよね?」

「そんなことないわよ。わたしって継続的な努力は苦手だけど、最初だけはきちんとしてんだから」

 この自慢だか自虐だか分からない夏鈴。こやつにさえ対抗できないまどかでありました。



 はるかちゃんは他にもいろいろ教えてくれた。


 基本的に、ウソつきになるテクニック……といっても、ドロボウさんの始まりではない。

 役者の基本なのよね。

 マリ先生は、型とイマジネーションを大事にしていた。だから、知らず知らずのうちに、貴崎流というか、乃木坂節というのが身に付いていく。

 良く言えば、それが乃木高の魅力だった。悪く言えばクセ。むろん悪く言う人なんてめったにいない。コンクールのときの高橋さんという審査員ぐらいのものだった。

 もっと後になって分かったことなんだけど、大学の演劇科にいった先輩たちは、そのクセから抜け出すのに苦労したみたい。

 いずれにせよ、その型を教えてくれる先生がいないのだから、自分たちでメソードを持たざるを得ない。

 で、その最初がウソつきになるテクニック。

 だれにウソをつくかというと、自分に対して。

 まあ百聞は一見にしかず。ということで、はるかちゃんが演ってくれたことを録画して再生。


 はるかちゃんが、針に糸を通しハンカチを縫った……ように見えた。

 でも不思議、アップにしてみると針も糸もない。マジック見てるみたいなのよね。

「簡単なことよ。両手の人差し指と親指をくっつけるの。で、じっとそこを見つめて、左手が針、右手が糸と思うわけ……するとこうなっちゃう」

 三人でやってみる……ナルホド、ナルホドと納得。

 こういうのを無対象演技というらしい。


 日を追う事にむつかしく、でも面白くなってくる。

 卵を割ったり、コーヒーを飲んでみたり。

 何日か目には、五人で集団縄跳びをやって見せてくれた。むろん縄は無対象。

 わたしたちは三人しかいないので、隣の文芸部を誘ってグラウンドで六人でやってみた。

 なんという不思議。簡単にできちゃった。

 みんな見えない縄を見ている。体でリズムをとって、回る縄に入るタイミングを計っている。

 縄が足にひっかかると「アチャー」 ぎりぎりセーフだと「オオー」ということになる。

 野球部やテニス部が、感心して見ているのが嬉しかったのよね。

 チャットでそれを言うと、はるかちゃんは我がことのように喜んでくれて、こう言った。

「それが演劇の基本なのよ。縄跳びが戯曲、演ったなゆたちゃんたちが役者、で、感心して見ていた野球部とテニス部が観客。この、戯曲、役者、観客のことを演劇の三要素っていうのよ」

「これ、やっぱり白羽さんのNOZOMIプロで習ったの?」

「ううん、うちのクラブのコーチに教わったの」

「いいなあ」

 で、詳しくは、はるかちゃんの『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』を読んでくださいってことでした。

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