はじめはミステリを書こうとした 4
語弊がないように書くと、「7SEEDS」は、いい作品だ。
舞台は近未来。隕石落下で地球人類滅亡を予見し、コールドスリープされたごく限られた若者たちが、未来の日本を舞台に生き抜いていく、別コミで掲載開始されて月刊フラワーに移籍し、十六年も連載された全三十五巻からなるSFサスペンスアドベンチャーである。
異世界転移ではないけれども、実質異世界転移のような作品。なので参考になるかと思い、読んでみた。
いくつか疑問やツッコミを挟みたい衝動にかられたのだけれども、いま現在を生きるわたしたちにとって、そこにある危機と感じられる物語である。
生きるためには自分で考えて、自分で決めて、行動していかなくてはならない。
誰かに言われるまま、考えもせず流されては、生き残れない。
便利さは、自分じゃない誰かが変わりにしてくれているだけ。
現代に生きる私たちは、便利さという他人の恩恵に頼りすぎ、いかに自分自身に生きる知恵、生き延びていく力をもっていないのか、この漫画は気づかせてくれる。
生きるためには、生殺与奪の権利を他人には握らせてはならない。
この作品を読んだあと、現在は六度目の絶滅の途にある資料を読んでいた。とりわけ問題とされているのが昆虫の大量絶滅だ。全昆虫の四割が減少傾向に在り、三分の一が絶滅の危機に瀕している。
こうして、脱線という名の紆余曲折しながら、異世界転生ものを考えていった。
資料集めは実に楽しい。
創作の重要度の八割が、この資料集めといっても過言ではない。気をつけなければならないのは、没頭しすぎると、自分の中でいい作品が出来たと錯覚してしまい、形にすることなく資料ノートだけがあとに残るというお粗末な結果になりかねないところだ。
ある程度資料を集めたら、作品を形にしていかなくてはいけない。
まだまだ資料は足らないと思いながら、作品のタイトルを考えることにした。
***
初期案。
タイトル
「あなたもわたしも異世界転生・仮」
キャッチコピー
「すべての異世界転生作品はこうであると思ってもらいたい」
テーマ
「青春は一度きり、やりたいことをやれ」
***
文芸部部長の独断で、今年の文化祭で配布する同人誌は、各部員一作ずつ書いた「異世界転生もの」の小説本にすることに決まり、主人公の少年は頭を抱える。
部員の殆どは女子で国語の成績も良くて賢いし、絵も書ける。みんなはやる気だった。少年は成績はまあまあで、絵や小説もうまく書けない。
他の部員や先輩とも相談すると、亡くなった幼馴染が転生した話でも書いたらと言われ、「死者を冒涜するな」的な口論になる。
ふさぎ込む少年は一人、異世界転生小説を読んで、どう書いたらいいだろうと考える。そんなとき、電車内でたまに見かける別の学校の女子生徒と話すことになる。
異世界転生について語り合ううちに仲良くなり、やがて彼女は、異世界転生者だと語りだす。
彼女の語る異世界転生での記憶は興味深かった。
幾度か転生して異世界を渡り歩いた記憶を持ち合わせていて、その話の中に、少年に覚えのある話が混ざっていた。
少年の回顧。
仲が良かった幼馴染との思い出だ。病気でなくなってしまい、いまも引きずっていた。
少年は彼女に問う。きみは幼馴染なのか、と。
転生をくり返すと、すべての記憶を保持し続けるのは難しく、また現世の暮らしが楽しければ忘れていくので、「わからない」と答えながら、断片的に語る昔の記憶。
少女の話に少年が肉付けするように補足していく。
幼馴染の生まれ変わりだ、と少年は結論づける。
再会を喜ぶも、「でももう会えない」と少女は別れていく。
懐かしさを感じながら少年は一人、彼女との話を振り返る。
会話の端々に出てきた言葉や場所が、実は電車内で見たものを寄せ集めたものだったことに気づく。
彼女が幼馴染の生まれ変わりというのは嘘だった。
今まで話してきたことも全部ウソだったかもしれない。
そもそもなぜそんな嘘を彼女はついたのか。
確かめたくても、少女の姿は何処にもなかった。
その時の話を少年は書き、いまも学校図書室の本棚には、歴代文芸部の同人本の一冊として、残されている。
***
サスペンス・ミステリーを書こうとしたときの設定を破棄するのはもったいないからと、双方を合体させて案を考える。
「これのどこが異世界転生ものだ~」、と頭を抱える。
大衆小説としてはアリかもしれない。
でもあきらかに異世界転生ものではない。
事故にあって死亡し、神様の手違いで「ごめんねごめんね~」とチート能力もらって、ゲーム世界のなんちゃって中世に飛ばされ、可愛い女の子と美味しいもの食べながら冒険するといった、テンプレ話をわたしが書く理由が、どうしても思いつかなかった。
自分にしか書けない異世界転生ものとはどんなものなのか?
こうなったら、常々抱いていた疑問や、自分がやりたいことをまとめて書いてみようと、頭を切り替えた。
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