戻る日常
「ヤマトー?起きてる?」
ダンさん達が来たあと一度下がったはずの熱がまたぶり返した結果ここ二週間ずっと寝込みっぱなしだった俺にはルルの元気な声は一種の救いだ。ようやく昨日にまた熱が引いて、ようやく起き上がれるようになった俺は体力が有り余っている。
「起きてるし起き上がってるよ。ようやくだ」
俺は苦笑しながら答える。
ほとんど起き上がれずに居たせいで着替えも二、三日にいっぺんだった。今も服がなんか気持ち悪いからさっさと着替えたい。
「じゃあ下で待ってるね。シャリアも心配してたからね」
シャリアは確かに一人で突っ走ったが迷惑をかけたのは俺らだけであって調査団の人たちには掛かってない。なのでなんのお達しも無い。でも罪悪感は感じてるらしく単に熱を出して寝込んでた俺をとても心配してくれたのだ。
俺は寝込みっぱなしで固くなってしまった身体を解すようにストレッチをしながらゆっくりと起き上がる。首や肩を回すとポキポキと音が鳴る。
二週間もずっと寝てたんだ。身体も鈍っているはずだ。
「これから暫くはリハビリだな……こんなんじゃ依頼を受けてもすぐ死んじゃうな」
俺は身体中をまたポキポキ鳴らしながら着替えていく。当然動きやすい部屋着だ。
階段を降りてると気づいたがなんというか自分の身体が自分の物じゃないみたいなそんなラグのようなものがある。
まずは体術からゆっくりとリハビリをする方が良いだろう。筋肉は多少落ちた程度で脂肪も付いてないから問題は無いのだ。
「あ、ヤマトさん!ようやく起き上がれたんですね!」
階下の食堂に入ると俺に気づいたシャリアが立ち上がってこちらに来た。満面の笑みでこちらも何故か幸せな気分になる。
「おーうヤマト、邪魔してるぜ」
と、何故かここの店主のメリーさんも一緒になって朝から酒を飲んでいるのはダンさん達〈風の導き〉の面々だ。
「ダンさん……朝から酒は良くないですよ。飲むにしても昼からにしないと」
ルルもそう言って心配そうだ。一応、この世界での飲酒について説明しておこう。
この世界にはいくつもの国があり、種族的にいくらか差はあるがだいたいが十五歳で成人となる。飲酒に関して特に法律などで禁止はされていないが皆成人してから飲むものだと思っているようだ。俺の場合まだ日本での感覚が抜けないから飲んだことは無いが。
「はっはっはっ!こりゃあルル嬢ちゃんに一本取られたな!」
どこに一本取られたのかわからないがダンさんは豪快に笑ってるしナクルさんやベルさんは呆れたような表情だ。他の人達は……テーブルに伏せている。まさかとは思うがここでずっと飲んでたのではないだろうか。
「ダンさん、まさかここでずっと飲んでたりはしなかったよな?」
「ん?あーこれの事か。いやー昨日ルル嬢ちゃん達にギルドでの報告を伝えに来たらよ、メリーさんに一杯誘われてみんなで飲んでたらいつの間にか朝になってたんだな!」
ダンさんの顔は晴れやかだ。反省はしてても後悔はしてない感じの。
「ヤマト、あんたなかなか凄い奴だったんだね。これなら父親にも自慢ができる。龍を殺したハンターが泊まった宿だってね」
え?今メリーさんなんて言った?
今なんか龍を殺したハンターって聞こえたんだが?いや別にあの場で隠すつもりは無かったけどね。それに調査団の人たちも俺がやったというのを証言したらしいしね。それでも信じるの早くないかい?
「っとそうだ。ヤマト、起き上がれるようになってからでいいからギルドに顔を出してくれってギルド長が言ってたぞ。さすがに龍を殺したハンターを無理やり呼びつける訳にもいかないらしくてな。それにヤマトが寝込んでるってことも加味してくれたらしい。とりあえず後で行っとけ報酬もたんまりあるからな」
報酬か……出来れば金より龍の素材そのものとかミスリルとかが欲しいんだけどな。頼めばくれるかな。
その事をダンさんに伝えてみると。
「ミスリルくらい簡単にくれるだろうよ。なんなら魔鉱石だってくれるかもしれないぜ。なんせこの街の存亡をかけた状況で勝ったんだからな!その立役者に褒美を与えないでなんになる!」
酔ってるのかさっきから口調がなんかすごい。出来ればうるさいから静かにして欲しい……あ、ベルさんがダンさんの頭をはぶっ叩いた。やっぱり酔ってたんだな。むしろ酔いすぎだな。
じゃあ、飯食って着替えたらギルドに行きますかね……
俺はそう思いつつ久しぶりの熱いスープを啜るのだった。
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