武装に触れた日

「これは·········やっぱり銃だよな·········」


 俺は納屋の中で見つけた包みの中身を見てそう思った。


 木と筒状の金属棒で構成され、所々に突起のように存在する金具。

 長さがだいたい1メートル程度で重さも5kgくらい。

 加えて納屋の中にある金属球や金具などを組み合わせればもはや銃以外の何でもないだろう。


「見た目は火縄銃·········いや、マスケット銃かな。だけどフリントロック式じゃない·········これはむしろ·········」


 俺は前世で調べて得た知識を総動員してその銃を分析していく。


 かつて俺はサバゲ好きとして様々な銃を調べ、場合によってはモデルガンを買うほどだった。

 その調べる対象は何も最近の銃だけじゃない。当然、昔の銃も含まれている。


 だからこそ俺は一人の銃好きとして目の前にある銃がなんなのかが知りたいのだ。

 この世界に銃がある、という衝撃の事実を置き去りにしてまで。



「これってどう見たってボルトアクション式の装填機構だよな。なのに見た目はマスケット銃……」


 俺は正直納得がいっていなかった。

 目の前にある銃は見た目はマスケット銃だ。ライフリングも無い。ただ、マスケット銃ならば本来は無いはずの後部装填機構ボルトアクションが存在する。


 そもそもボルトアクション式が生まれたのは元の世界では1800年代だったはずだ。しかもその頃にはライフリングの技術も生まれている。

 そうすると、技術的な歴史が何かおかしいように感じる。


 この銃に使われているボルトアクションは初期の頃のものだと思う。銃身の後部に差し込む形で筒が入れられ、それを引いて装填する。イメージとしては楽器のトロンボーンが近いかもしれない。


「これを誰が作ったのかが気になるけど·········そもそもこれ使えるのかな?」


 これが何故この納屋の中にあるのか、そして俺はようやく気づいたが、何故この世界に銃が存在するのかなど気になることはたくさんあるが……


「多分これが弾かな?多分このバッテンが付いてる袋が火薬なのかな」



 俺は目の前にある銃を組み立て始めていた。


 銃本体は完成されていたから細かな金具は予備だったのだろう。


 ボロボロの紙の近くにまだ綺麗な紙が残って居たからそれを使って薬莢をそれっぽく作っていく。正直、細かな構造までは分からない。

 でも1600年代には本当に使われていたものの再現だ。さすがに火薬は入れなかったが、弾も薬莢の中に入れていく。


 口径は目算15ミリくらい。測ってみないと分からないが弾もそれくらいなのでそう作っていく。薬莢の中には弾と火薬の代わりに失敗した時の紙を丸めて詰めてある。


「で、出来た·········」


 俺は試行錯誤しながら作り上げた弾入り紙製薬莢もどきを眺める。


 不格好だが、ちゃんと火薬を入れれば発射は出来る·········はず。


 ちゃんと押さえてなければ球状の弾が転がり出てしまいそうだ。元の世界で使われていたのとは違い、弾は火縄銃とかで使われていたものだったからだ。


「さて、ちゃんと動くのかな·········」


 俺はそっと銃のストックの部分を持ち上げ足に乗せる。こうでもしないとまともに動かせないのだ。

 

 試しにボルトアクションを引いてみるもピクリとも動かない。

 錆び付いているだとかでは無い。単純に俺自身の力が無いだけだ。


「うーん、まずは力を付けないとな·········だって5歳の体だし──」


「ヤマト様」


「ひゃあっ!」


 いきなり後ろから掛けられた声に俺はびっくりして足に乗せた銃を落としてしまった。

 落とした時の音にも驚きながら振り向くと、そこにはバナークさんが立っていた。



「驚かせて申し訳ありません。ここに居たのですね。昼食の時間になっても姿を見せないので皆さん心配していましたよ」


 バナークさんの後ろにある納屋の扉からはわずかに赤くなった空が見えている。


 ……どんだけ長い時間弄ってたんだ俺は。



 俺はそっと立ち上がると素直に頭を下げた。


「えっと……ごめんなさい」


 すると、バナークさんは笑いだした。


「これは失礼しました。ヤマト様、別に謝られる必要は無いのですよ。ですが、まさかこれを見つけるとは……」


 バナークさんは俺が弄っていた銃を軽々と持ち上げると、懐かしそうに眺めたり、構えたりする。

 その姿はかなり様になっていた。


「ヤマト様。これがなんなのか分かりますか?」


 俺はその問いに頷く。


「……そうですか。まあ、こんなものがあるのでは信じるしかありませんね」


 バナークさんは俺が手に持ったままだった紙製薬莢もどきを見てそう言った。



 それからしばらくバナークさんはじっと銃を眺め続けた。

 だいたい十分くらいだろうか。それぐらい経った時、バナークさんはおもむろに口を開いた。


「この銃はかつて私が使っていたものなのです。確か、先々代がまだ若かった頃でしょうか。私は彼と良く山で狩りを行っていました。彼は剣を扱い、私は後ろから狙い撃つ。それをやっていたのがだいたい五十年程前のことでしょう。彼が領主となってからはそんなことは一切無くなり、私もこの銃を手放した·········はずなんですがね。ここに仕舞いっぱなしだったようで。もはや銃も廃れたはずです。魔法が発展し、銃は精々衛兵が持っているかどうか程度の物になりました·········」


 バナークさんは寂しそうに、それでいて何か期待するように言った。


「ヤマト様。一つ私からお願いがございます。これは断っていただいて結構です」


 バナークさんは俺の目を見て言った。


「ヤマト様はこれがなんなのかが分かっているのでしょう。ですから、どうかこのバナークに銃をご指導させて頂けないでしょうか。老人のわがままではありますが、この武器が全く扱われなくなるほど悲しいことは無い」


 俺はその申し出にとても驚いた。

 可能ならば銃の訓練を誰かに頼めないかと銃を見つけた時から思っていたが、まさかバナークさんが教えてくれるとは。


 俺はすぐさま頷き、バナークさんに教えて欲しいということをアピールした。



 それを見たバナークさんはとても嬉しそうに笑った。


「分かりました。私の持ちうる技術をお教えします。明日から訓練を始めさせて頂きますがよろしいですか?」


 そう聞いてきたバナークさんに俺は「はい」と答えた。





 俺は明日から始まる訓練に心踊らせるのだった。

 七年間の地獄があるとはまだ知らずに·········


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