第182話
人を『生ける屍』と化す凶悪な呪文。呆けたままのフォワールに、もしかしたらそれが使われたのでは? と、
「おばさま、その男が使った様なロストマジックとやらがフォワールに使われたとしたら、もっと広範囲に影響が出ている筈ではないですか?」
男が使ったのは、森の中から村全体まで影響が出る様なシロモノ。いくらフォワール邸が広いといっても、ソレを収める程の敷地は無い。今回ターゲットにされたのはフォワール卿一人のみで、その息子や使用人達には術の影響は無かった。……息子は錯乱してたけどね。
「もしかして――」
考え込んでいたおばさまが、真一文字に
「あの時はまだ未完成だったのかも……」
「未完成、ですか……?」
「ええ、石板に書かれた内容をちゃんと理解しないで術を使用したんだわ。結果、術が暴走して広範囲に影響が出てしまったのだとしたら……」
辻褄は、合う。……か。
「いえ、お母様。むしろ、両方と見るべきですわ」
「両方って……単体でも複数体でも任意に出来るって事……?」
「そう思っていた方が無難ですわ」
なるほど。予め最大被害を予想していれば、予想外な事が起きても狼狽える事も無いね。ってゆーか、なんか私。だんだんと蚊帳の外に追い出されている気がする。
「どうかなされたのですか、お姉様」
「へっ?! い、いや……何でもないです」
魔術に関しては門外漢の私。疑問にズバッと物申したものの、その後の展開に付いていける筈も無く、心の内で相槌を打っていた訳だが……リリーカさんからの不意打ちに、思わず妙な声で返事を返した。
「ともかくだ、今日もこれから会議に出なきゃならん。店は開けなくても良いからな」
読んでいた新聞をバサリ。とテーブルに置いたオジサマは、席を立って部屋に戻って行った。
「お姉様はどうなされますの?」
「んーそうだなぁ……」
今日はアレの予定日だ。出来うる事なら何気兼ねなく瞑想したい。
「一度部屋に戻って着替えてから、ギルドの掲示板でも覗きに行こうかな」
「では、お供致しますわ」
いや、あの。個室で瞑想したいんですが……
「り、リリーカさんだって再渡航の手続きとかあるんじゃ……?」
「ご心配痛み入りますが、問題ありませんわ」
あなたには無くても私にはあるのよ。
その後も何かと理由を付けてはみたものの、向日葵の様な笑顔と上目遣いの潤んだ瞳のコンボに、首を縦に振るしかなかった。
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