第137話

 王女を始め貴族の視線が私に注がれる。一部の人は、『どうだ、これ以上のお宝など出せはしないだろう』と、言わんばかりに勝ち誇った表情をしていた。日本刀の様な洗練された美しくもある剣は、この街の何処の武具屋でも取り扱ってはいないし、立ち寄った冒険者の中にも刀を所持している人を見掛けた事も無い。


 それをこうして出してきた。という事は、この刀の価値が高いからに他ならない。リリーカさんの向日葵の様な笑顔も、いつもとは違い僅かに陰りが見えた。こうなったらもう、命を賭して産み落とした我が子アレに賭けるしか無い。


「では、お願いします」

「ハッ」


 女は度胸だ。と己を奮い立たせ、控えていた衛兵さんに預けていたモノを持って来させる。掛けていた布を取り払うと、室内に驚嘆の声が響いた。


「我が家に代々伝わりし家宝。名を『ブラッディ・ルビー』」


 銀鉱の素に私の血が混ざり合ったと思しき真っ赤に染まった鉱物。その見た目から、元の世界で飲んだ事のあるカクテルの名をもじって付けた。


「これを婚約の証として、リリーカ=リブラ=ユーリウス様に捧げとう御座います」

「なんと、家宝を譲り渡すというのか……」

「その通りで御座います。マクシム様」


 仙人姿のマクシムさんは、信じられない。といった風で、目をまん丸にして驚いていた。


「正気ですの? 家宝を譲る。という事は、家系が途絶えるのと同義なのですよ?」

「存じておりますマリア様。しかし、リリーカと共に居られるのならば、家名など喜んで捨て去りましょう」


 確かロミオってこんな事言ってたよね……


「家名を捨ててまで愛する者の為に尽くすか。天晴じゃな。バアさんとの若き日を思い出すわい」


 仙人姿のマクシムさんは顎髭を撫でながら目を瞑り、思いを馳せている様子だ。マリアさんもミネルヴァさんも、女性という事もあって食い付きは良いし、フレッドさんとルレイルさんも珍しげに見ている。貴族の人達の関心は宝珠の方に向いていた。だけど、その中の二人だけは別な視線で見ていた。


 一人は当然、フォワール卿。そしてもう一人が……


「ほう、これはまた珍しい鉱物ですね。どうやって生成されたのか興味が湧きます」


 かん三位のくらいを持つ、タドガー=ヘミニス=ラインマイルだ。


「欠片でも結構ですので、私にも一つお譲り下さいませんか? 色々と調べてみたいのですが」

「申し訳御座いませんがラインマイル卿、我が領地にて掘り出されたのは一つきり。故に、家宝として代々受け継いで来たのです」

「そうですか……。確かカーン殿の領地は東方のほうだとか……」

「タドガーよ。何を考えておる?」


 仙人姿のマクシムさんの言葉にタドガーさんは、アルカイックスマイルには程遠い不気味な笑みを浮かべていた――

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