第2話 新聞配達
一年前の今頃もこんな陽気だったろうか。
早朝は寒いが、春の気配が少しずつ漂ってくると、体の芯もいくらか温まる気がして、バイクに乗ってスピードを上げる時に刺す寒風の痛さもあまり気にならなくなってくる。
中谷は、新聞配達員としてこの地に来て七年になるが、この業界では一カ所に七年もいるのはかなり長い方だ。
今の営業所の二番目の古株になってしまった。
彼はすでに三十代も半ばに差し掛かっているが、人生にこれといった目的もない。
デザイン学校を中退したのち、世間体にうるさい親元から離れるため、最初はアルバイト程度の気持ちでこの世界に入った。
それがきっかけで現在まで何となく時が流れてしまった。
もちろん、何度か他の職業へ移ってみようかと思ったことはあるが、『自分は一生この仕事しかできないのではないか』という不思議な呪縛に取りつかれてしまっているようで、思い切ってこの職を捨てる勇気が湧いてこない。
この十七年間、数軒の営業所を転々としてきたが、特にトラブルを起こしたわけではない。自然と別の土地へ移りたくなった時や、営業所間の都合で別の土地に移るよう依頼があった時などに、新たな営業所にお世話になる。
という具合で、全ては業界の手配師が面倒を見てくれる仕組みになっている。
朝刊は夜中二時頃から始めて六時頃終わる。
それから朝食をとり、十一時まで睡眠をとる。
十一時から十二時までミーティングがあり、各自の受け持ち、成績などの確認の後、皆一斉に集金活動、営業活動に出る。
午後の二時半ごろに夕刊が届くので、それまでには全員営業所に戻って、今度は夕刊の配達にバイクを走らせる。
夕刊は朝刊の半分程度の部数なので、速い者で一時間半もあれば終わってしまう。
夕刊が終わると、各自受け持ちの集金活動、営業活動に従事することになっているが、たいていは疲れて営業所の仮眠室兼ミーティングルームでごろごろするか、自分のアパートに戻って仮眠するのが常である。
午後八時には一応全員集合して集金した金を責任者に預けることになっている。
これを終えると九時過ぎになっているが、この後夜中の二時までは自由時間だ。
この約五時間、アパートに帰って寝ようが飲みに行こうが、朝刊に間に合うよう起きてくれば誰も文句は言わない。
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