k-141

 マルゴの馬車には、ユリナさんが乗っていた。


 ユリナさんが心配そうな表情をしていたが、俺の無事な姿を見て安心した表情になる。


 しかし、それも束の間、プイっと目を合わせてくれなくなった。


 それからユリナさんは、美人局の女性三人と話をつけてくれた。


 今日のところは夜も遅いので、鍛冶小屋に泊まり、明日乗ってきた馬車で町まで送り届けることになった。


 俺は、女性三人から改めて謝罪を受けた。


 マルゴの提案で、俺たちは寝所兼居間の中で宴会をすることになった。女性三人も誘ってみたが、流石に悪いと謝辞された。


 夜も遅いので、俺は簡単に作れるハーブ鶏の卵、チーズ、タラコの塩漬けを使い、チーズ明太卵焼きを作った。


 チーズ明太卵焼きを食べたマルゴが硬直していた。他にも酒の肴に燻製卵、燻製肉などを出して上げた。


 俺は、いつまでもにこやかな表情のまま目を合わせてくれないユリナさんの肩を叩き、「外で話がしたい」とジェスチャーをする。


 俺とユリナさんはコッソリと、暖かい小屋から冬の足音が聞こえる小屋の外に出ることにした。



 ◇◇◇



「ハー」


 二人の白い吐息が舞い踊る。


 ユリナさんが両手を口に添え、手を温めている。


 彼女が寒さで小刻みに震えていたので、俺は彼女の肩にそっとアッシュウルフのマントをかけてあげた。



 ――不意に。



「ユノス……」


「雪……」



 二人の声が重なった。


 キラキラと輝き舞い落ちるそれは、北海道の地ではよく見た風景。


 ダイヤモンドダストだった。


 声はしんしんと降り続ける雪に優しく包み込まれ、小屋の中までは届かない。


 淡く輝く雪を背景に佇み、空を見上げる彼女は、まるで純白の羽を降らせる天使のように見えた。




 ぷくっと彼女が、ほっぺたを膨らませた。


 何も言わずに、彼女のお店に顔を出さなくなった俺のことを怒っているようだった。


 やはり、俺のヘタレ根性などお見通しか。この人には、敵わないな……。


 俺は、「ゴメンナサイ。アナタノコトガスキデス」と片言のランカスタ語で彼女に想いを伝える。


 彼女の表情が、ほんのりと明るくなる。


 そして、彼女は何かを考えるように少し沈黙した後、「ワタシモ、アナタガスキデス」と答えた。


 そして再び、二人の間に沈黙の帳が下りる。


 余計な雑音は、柔らかな雪が静かに降りつもる音に全てかき消される。彼女となら、沈黙も全く嫌ではない。


 ただただ安心で優しい時間だ。


 俺は、彼女の綺麗な髪を飾る、冷たい天使の羽を手ではらう。風邪でもひいたら大変だから。


 俺はしんしんと降りつもる雪を見ながら、無意識にゆっくりとした優しいクリスマスソングを口ずさんでいた。


 母さんが、いつもクリスマスに飾り付けをしながら歌ってくれた歌。


 すると、急に彼女が抱きついてきて、俺の頭をゆっくりと優しくなでてくれた。


 それはまるで、天使の羽に包まれているかのようだった。


 どうやら俺は、自分でも気がつかないうちに、原因不明の何かが込み上げてきて、涙を流していたようだ。


 彼女が心配そうな顔をしていたので、俺は涙をぬぐい「もう大丈夫だよ」と笑顔で答えた。


 それから俺たちは向かい会って、雪が舞い散る夜空に手のひらをかざしながら笑い合った。


 俺は、強烈に心を支配していた断絶衝動が手のひらの上で淡くとける雪と一緒に、どこかへ消え去って行くような感覚を覚えていた。


 彼女が困っているなら一番に駆けつけよう。


 彼女が悲しい時はいつも側にいたい。




 俺は、彼女の剣となり盾となることを天使の羽が舞い踊る幻想的な夜空に誓ったのだった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 みなさんこんにちは! ここまでお読み頂きありがとうございます🐔


(作者のモチベになりますので本作が気に入ったら、☆、♡、お気に入り登録、応援コメントよろしくお願いします🐉 書籍、コミック、ニコニコ漫画での連載も宜しくです🐕)

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