よしなしごと奇譚

工藤 流優空

田舎フリーマーケット

 少女は眼前に広がる、無造作に連なるブルーシートの群れを見つめた。普段は人工芝が隙間なく敷き詰められている公園。しかし今日は、隙間ない青が広がっていた。


 一か月に一度この公園で開かれる、地元の小さなフリーマーケット。別に、来たいと思って来たわけではない。父親が自分ひとりで行くのは寂しいから、そう言って少女を連れてやってきた、それだけのことである。


 父親と待ち合わせ時間を取り決め、少女は少し軽い足取りで、群青の群れへと足を踏み入れる。普段は学校の日以外は外に出たがらない彼女だが、一度外に出てしまえばフリーマーケットと名づけられた空間そのものに触れることは、嫌いではなかった。


 思えば幼き頃からたくさんのフリーマーケットへ足を運んだものだ、と心の中で呟きながら少女は、行く先左右に広がるブルーシートの上に雑多に並べられた商品やその商品を眺める客、そして今日は店員役を務める人々を眺めながら足早に通り過ぎていく。段ボールに乱雑な字で書かれた価格表をしり目に、ただ漠然と、何か自分が欲するものがないかを物色する。


 フリーマーケットへと足を運ぶ人間たちの目的は、いったい何なのだろう。少女はふと、歩きながら考える。色んな目的をもってやってくる人がいるのだろう。フリーマーケットと一口で言っても、地元のもの、もっと大型イベントとしてのものかによってもきっと異なるはずだ。


 私は。少女は自分に問いかける。私は一体何のためにここへやってきたのだろう。ただ流れるように、流されるように、やってきた。何のために。何かとの縁を求めて。それはモノとの縁かもしれないし、人との縁なのかもしれない。何かに出会いたい。何かと縁を結ぶきっかけがあれば嬉しい。そんな気持ちで、ここへやってきた。こんなに足早にスペースを駆け抜けていても分かる。自分が求めているものは、通り過ぎてきた店の中には、未だ存在しないのだと。


 本屋さんへ、好きな作家さんの本を買いに来たように強い目的意識を持ってきたわけではないけれど。何か突き動かされるように、人々の喧騒を駆け抜けて次々と店を回っていく。


 そして、見つけた。「求めていた何か」を。




 その店は雑然とした風景の中に、急に現れた一輪の花のごとく彼女の目に留まった。そして、少女は感じた。ここに、自分が今日このフリーマーケットを訪れた意味があるのだと。


 ……そこで彼女が見つけたもの。それは、彼女だけが知る物語。

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