ミスティ・サマー

朝霞 はるばる

2020年(平成32年) 2月15日

 担任教師が1冊の本になった。

 自伝が出版されたわけでも、誰かから取材を受けていたわけでもない。本当に文字通り“本になった”のだ。


 その瞬間を、わたしは見ていなかった。珍しく雪の積もった高校の校庭を眺めていたわたしの意識を教室に引き戻したのは、周囲のクラスメートが息を呑む声だった。


 ハードカバーで、表紙には文字らしきものが書かれている。300から400ページほどの、普通の本。それが、ついさっきまで肉付きの良い中年男性が立っていた教壇に、無造作に転がっていた。教師はどこにもいない。


 彼は本になったのだ。


 その超常現象の呼び名を、教室中の誰もが頭に思い浮かべただろう。

 ニュースで散々報道され、週刊誌やオカルト雑誌で特集され、ネットで議論を巻き起こしたその現象。


 その日、わたしは『本化現象』を初めて目の当たりにした。

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