鳴らない酸漿

ボクは知っている


お姉さんは病気がちだった

お隣さんと仲が良かった

彼は親切にしてた

よく家に来てた

お姉さんが出迎えれないときは

ボクが出迎えるんだ

ボクはその男の人が好きじゃなかった


ヒトのニオイがして起きた

部屋も外も真っ暗だった

黒い影が動いているのは見えた

知ってるニオイがした


明るくなると彼が来た

悲鳴が聞こえた ボクは見に行けない

しばらくして大勢のヒトが家に来た

二階からお姉さんのニオイが下りてきた

哀しいニオイがした


「遺言で、彼女の愛犬を、彼を引き取ってほしいと書いてあったので、彼女の言葉に従って、責任をもって僕が大事にしていきます」


なぜか彼の家に連れていかれた

囲いが用意されていた

丈夫そうじゃない

ゴハンがおいしくない


音で目が覚めた

彼からガーガーと音がする

目の前のソファで寝ている

しばらく彼の首を見ていた

ずっと見ていた

あの日一瞬だけ見えたお姉さんの首



ボクは知っている

お姉さんとあれから会えていない理由

ボクは知っている

彼はいま目の前で静かだ

あの日と同じニオイ

あの日と違う哀しいニオイ

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