ティッシュペーパー

昨日、久々に喧嘩した

何年も付き合って、何か月前から同居して

嫌なところも、我慢したところもなかった

いや、話し合って解決してきた

乗り越えてきた


だけど、昨日。すごく久しぶりに喧嘩をした

そのままの雰囲気で今朝も家を出てきた

彼女はきっと悪くない。でも、あたしだって悪くない

こっちから謝るつもりもない

当分口なんか聞くもんですか


職場についた

普段通り仕事はこなしていたつもりだったが

いつもとは違うオーラでも出ていたのだろうか

同僚がお昼の休憩の際、声をかけてきた

「え、彼女さんと喧嘩したの? 珍しい」

「そう、珍しく」

あたしも確かに頑固だなと思う

同僚の言うとおり、どちらが悪いかに関わらず

謝るべきだったのかもしれない

けど、分かってはいるけど、謝る気になんかなれない


帰り道、ふとティッシュがなくなりそうなのを思い出した

アパートの真下にあるドラッグストアで買って帰る

階段を上って自分の家のフロアについた時

家の前、まさに今鍵を開けようとしている彼女に気付いた

向こうも気付く。やや赤く腫らした目があたしの顔を見る

あたしの右手に視線を移すと、流れるように自身の左手を見る


彼女が顔をあげる

示し合わせたわけでもないのに、ほぼ同時に手に持ったそれを前に掲げる

「「もう、買っちゃったよ」」

これもまた重なった

一瞬の間の後、あたしたちは思わずふきだした

あーあ、つい数秒前までは絶対謝るもんかと思ってたのに

しばらく口もきいてやんないとも思ってたのに

あんなに思ってたのになぁ


彼女の顔がにやけている 赤い目をしてふやけている

きっとあたしもにやけている

顔も体も、心も頭も 全身くまなくふやけている

ダメな奴らだ。どうしようもない奴らだ

帰ったらまだ、予備のティッシュが一つあった

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