2012.10.31 風見④ 03
「自分は、なにが言いたいねん。結論からぬかせや」
「これから語るのは、UMA映像の査定する側からの意見です。『可憐な女子高生の割り切り放課後』の映像ですが、あれはスカイフィッシュを撮影したものとしたとしては、珍しい類いのものではありません。
『可憐な女子高生の割り切り放課後』にゲストとして横切ったスカイフィッシュ。あれは、モーションブラー現象が原因です。同じような現象は他のアダルトビデオでも見られています。わかりやすい映像なのは『去年まで女子高だった学校に入学したら男はぼく一人。ただただ男子というだけでハーレムに。学校に男子はぼくだけだから、当然のように――」
「いちいちタイトル言うんは、性格か? それとも、嫌がらせのつもりか?」
タイトルをフルで口にするのも時間稼ぎのひとつだった。この手はもう使えないが、焦る必要はない。ほかに話を引き伸ばす方法はある。
「ところで、モーションブラー現象って言いましたけど、説明しなくても理解できてます? ブラってついてますけど、ブラジャー関係ないですからね」
「しょーもないこというなや。有から教えてもらったことがある。あれや、あれ。虫がビデオカメラのレンズを横切るんに、大層な名前をつけたんやろ」
「おおまかな説明は、その通りですね。モーションブラー現象。カメラの質が低いと起こる現象です。羽虫が横切った映像が、スカイフィッシュの形状と酷似して表示される。言葉を知ってるなら、おそらく有くんでも判別がつくと思います」
ここで、言葉を切る。
これからの風見の発言で、無表情を貫く聖里菜の表情に変化があるだろう。予想できたからこそ、風見は聖里菜から顔を背ける。
風に翻弄される白い洗濯物を見て心がざわめく。洗濯バサミに留められていなければ、自由に宙を舞わねばいけないはずだ。
やがて落ちるという、定められた中での自由。
どうしようもないほどに、風見は不自由を羨ましく思っている。
「だから、お姉さんが弟の有くんにゲロしたことは、無駄以外のなにものでもないんです」
「ダボ。無駄ちゃうわ。そもそも、有が鑑定しよる時点で、映像見られとるってことやろ。そうなったら、終わりやねん」
「その考え方事態が、ずれてると思うんですよね。アダルトビデオの映像をわざわざ見る前に、他の映像を検証していくとは考えなかったんですか?」
「そうやったとしても、いずれ行き着くやろ」
「どうでしょうかね。スカイフィッシュにこだわらなければ、それこそUMAの映像はたくさんある。一九九三年に起きたネッシーに関する事件のせいで、加速度的にどんどん増えていってる。有くんが一八になるまでは、背伸びしてアダルトビデオの中の映像を確認するとは考えにくくないですか?」
「自分は、有の病状を知らんから、勝手なこと言えるんや。一八まで生きられるとは限らへん。そうなったら、待たずに見るやろ?」
「失言じゃないですか、いまの。長生きするのを信じていないってことですか」
「やかましいわ、ダボ」
反論の声が弱々しい。
聖里菜の隠しきれない本音を感じ取れた気がする。
かつての自分自身を見ているような気がして、風見の本音も溢れ出そうとしている。
「大切な人のことを考えるあまり、暴走気味に行動を起こすべきではなかったですね。大切な人との関係に致命的なヒビが入ることがあるんだから」
聖里菜は反論できない。
できるはずがない。
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