光の妖精

「帽子屋……っ、帽子……や……っなんで、なんでだよ……!」

涙が止まらなかった。俺を守って助けてくれたけど、最後に見たのは彼が倒れた姿だったから。

「帽子屋……とは?」

「あぁ……そっか。リリーは知らなかったんだもんな。あの姿が本当らしいんだ」

「……そう、ですか」

顔を上げると、リリーも辛そうな顔をしていた。

「また力を使わせちゃったな……大丈夫?」

「私……私は……っ!」

体を大きく揺らすと、地面に手を叩きつけた。

「私が守らなきゃいけなかったのに! 何も、何にもできずに……貴方を危険にさらして! それにあの人も救えなかった……っ」

「リリー……落ち着いて」

震わせた体から、涙が零れ落ちた。

「私……もう……」

「俺の為に体を張って頑張ってくれたよ。何もできなかったのは俺の方だ……」

彼女の近くに寄り、互いを慰めるように抱きしめた。じっと震えが収まるのを待つ。やがて涙でぐしょぐしょになった顔を見合わせたら、つい頬が緩んでしまった。俺も多分酷い顔をしている。

「もう立ち止まっているわけにはいきませんね。皆の為にも……あの人の為にも」

「そうだな」

もうすぐなんだ。ここで帽子屋や、皆の思いを無駄にするわけにはいかない。

「ところでここは……どこ?」

辺りは一面砂嵐が吹いていて、何も見えない。

「もしかして、ここを歩くの?」

「難関な課題が最後にあるのよ」

俺たちは前も後ろも分からない道をずっと歩いていた。風が強くてなかなか前に進めない。隣で今にも消えそうな光を照らしながらついてくるリリーが心配だった。相当力を使ったのか、手のひらサイズぐらいにまでなっている。

しかし俺もそろそろ限界かもしれない。アリスが本当に俺に会いたがっているのなら、素直に呼び出すだろう。ここまで来ても来ないということは、俺を試しているのかもしれない。いや、アリスはきっと……来られない状況なんだろう。

正解も不正解もないような道をどのくらい歩いただろうか。

「少し休もうか」

「……うん」

微かに声が聞こえた。彼女を自分の手に乗せようとした時、いきなり元の人間サイズに戻った。慌てて彼女を受け止め、横に寝かせる。その目は開いていない。

「なんだ、どうなって……リリー! 大丈夫か? おい……目を、開けてくれっ」

肩を揺すり、震える手で彼女の指先を掴んだ。そっと開かれた瞳が弱々しく、俺を見つめる。

「ごめん……なさい。もう限界、みたい……今までありがとう」

「そんなこと言うなって……っ」

俺の顔に手を伸ばして、涙を拭いた。

「泣かないで。貴方は強い人よ。最後に私から……皆からお願いがあるの……聞いて」

目を合わせて、しっかり頷いた。

「時間をあるべき時に戻し、あの子の夢を終わらせる……こんなことを誰かに聞いたの。貴方にしか頼めないことよ……きっとマスターのところに行けば、分かるわ」

「……分かったよ。なぁ、リリーはどうしたら助かる? それもアリスが知っているのか?」

「私は妖精じゃなくて、ただの機械だから。ふふっ……マスターが私を作ってくれて、色んな思いを感じられるようになって、まるで人のようになれて……私とっても幸せだった。貴方に会えて、本当に良かった」

「リリー……っ」

「私も見守ってるから、最後のお願い……よろしくね」

握っていた手の力が抜けた。機械音が鳴り、鉄の部分が露わになる。リリーを抱きしめたとき、金色の優しい光が体を包んで、腕がフッと軽くなった。体はキラキラと光る砂に変わり、辺りの霧に混ざっていった。そのお陰で砂嵐は止み、建物が現れた。

ここが終わりの場所だろう。皆の思いを背負って、俺が終わらせる。必ずやり遂げるよ。

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