良き隣人

「考えてみれば、同人活動をやってるだけで普段の生活には困らない程度の収入を得、確定申告をし、税金も納めてる時点で、


『果たして<プロ>とはなんぞや?』


って話ではあるな」


「確かに。同人活動だけで生活が成り立つ人はごく一部かもしれませんが、それは、創作をする人の中で商業的にプロと言われる立場の人がごく一部なのと同じことでしょうから。


とは言え、私達出版社の立場では、商業的に成立しているものを<プロ>と規定するしかないのも事実ですね。


同人作家を<プロ>と認めるわけにはいかないというのはあるでしょう」


「まあ、それが出版業界の<驕り>だと私なんかは感じてしまうんだがな。要するに、自分達の決めたルールや価値基準にそぐわないものは異物として排除したいという発想としか思えんし」


「耳が痛いですね」


「本来、この世には決まりきったようしか存在を認められないというルールはないと思うんだ。ただ、ある程度は縛りを設けないと<社会>というものを成立させるのは難しいというだけで。


自然に生きる生物の多種多様さを見れば、人間がいかに狭い世界に閉じこもりたがってるか、一部の人間が自分達に都合のいいように世界をデザインしたがってるかっていうのを思い知らされるよ」


「そうかもしれませんね」


「だが、それでも現状ではそういう社会であることもまた事実。その事実を無視して自分に都合の良い社会に力尽くで作り変えようとすれば、それは<テロ>ということにもなりかねん。


ならば、自分に必ずしも都合が良いとは言えない今の社会の中で、それを気にしすぎず囚われすぎず、かつ逸脱しすぎないように生きようと思えば、自身の意識の方を変えるしかないんだよなあ」


「住めば都ってことですね」


「要するにそういうことだな。そしてそれができるためには、自分の存在を受け入れてくれる誰かがいるのが望ましいと私は思ってる。


私にとってのお前や、ミハエルがそうだ。なら、私達はあきらにとってのそういう<誰か>でありたいじゃないか」


「はい、分かります。私は、この子が生まれてきたことを喜びたい。この子が存在することそのものを祝福したい。


そんな風に思ってくれる人がいれば、少々、辛いこととか嫌なことがあっても、受け流せますからね」


「応よ。ミハエルも言ってたが、ウェアウルフにとっては人間との関わり方がすごく大切らしい。ウェアウルフにとって人間が<良き隣人>であるかどうかは、身近な人間次第だということだろうな」


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