彼の我儘
ミハエルの助言の下、アオとさくらは
二人ともデレデレが止まらない。
もちろん仕事もちゃんとするものの、やはり洸のことが気になって仕方なかったし、洸を前にすると、勝手に顔がほころんでしまう。
で、この時、エンディミオンがどうしているかと言うと、当然のように近くの公園でアオの部屋を睨み付けて見張っているだけだった。
そして、さくらは、そんな彼のことも忘れていなかった。
「じゃあ、帰ります」
そう言ってアオの部屋を出た後は気持ちを切り替えて、ちゃんとエンディミオンのことも見る。
下の子が生まれると上の子は親の愛情を奪われてしまうと感じてヤキモチを妬くことがあると聞いていたから、彼のこともおざなりにはしないようにと心掛けていた。
しかし、だからといって子供扱いすると機嫌を損ねるのも分かっているので、意識してこれまで通りの接し方をする。
それでも、
「……ふん。洸のことで頭がいっぱいだと顔に書いてあるぞ…!」
などと言われてしまったりもするが。
でもそれさえ、さくらは受け止めることを心に決めていた。しかも、
「ごめんなさい。あんまりにも可愛くて」
エンディミオンを立てる為に洸を下げることもしない。ただありのままを受け止める。
ここで、さくらが彼に気を遣って洸のことを下げるようなことをすると、そのあざとさをエンディミオンに見抜かれてしまって、かえって反発を招いていただろう。
『洸は可愛い』
エンディミオンも、その事実を否定しようとは思っていなかった。だから変にエンディミオンを持ち上げるために秋さを下げるのは逆効果だったのだ。
さくらは、彼の心の機微を既に感じ取っていたのかもしれない。
だからこそ彼も彼女と一緒にいられるのだろう。
彼が敢えてミハエルと馴れ合おうとせずに距離を置いていることも、さくらは尊重していた。
他人からはどれほどくだらない拘りに思えても、本人にとっては重要なのだから。
「今日はチャーシュー麺だ。チャーシューギガ盛りでな」
「うん、分かった。銕華亭だね」
そう言って馴染みのラーメン屋へと向かう。アオの部屋に向かう前にも食事は済ませていたのだが、時々、こうしてミハエルが<我儘>を言うのだ。
そしてさくらはそんな彼の我儘も受け止めていた。この程度のことは何の支障もない。拒まなければいけない理由もない。この程度の我儘を言うだけで済ませてくれるのなら、それこそお安い御用だ。
エンディミオンもさくらを困らせようとは思っていない。
ただ彼女が自分のことを見てくれているのを確認したいだけなのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます