体温

「あ~……あったかい……」


花粉が入ってこないように窓を閉め切った日当たりのいい部屋で、アオは春の陽気を満喫していた。


彼女自身はインドア派で好んで外には出ないものの、やはりこの時期の日差しは嫌いじゃなかった。


が、吸血鬼であるミハエルは完全に日の当たらない位置に陣取り、だらしなく横たわる彼女を微笑みながら見ていた。


日光を浴びてもすぐには死ななないものの、多少のダメージはあるからだ。


幸せそうなアオの様子を堪能してから眠るつもりだった。


ちなみに、今はこうして日の光を心地好いと思っているアオだが、夏の日差しは大嫌いである。


「太陽が全力で私を殺しにきてる~っ!!」


と悲鳴を上げる程度には。


なので、夏は特に外には出ない。日が暮れてからようやく散歩に出る程度だ。


とは言え、春は春で先にも述べたとおり花粉症があるので外にはあまり出ない。


日中に出掛ける可能性が一番高いのは、日差しが弱まった晩秋くらいだろうか。


それもあり、アオは元々、吸血鬼とは親和性が高かったのかもしれない。


「じゃ、僕はそろそろ寝るよ」


アオの様子をたっぷりと堪能し、ミハエルはそう言って立ち上がった。


するとアオも体を起こし、


「私も~」


とミハエルの後を追うように寝室へと入って行く。


深夜に目を覚まし仕事をして食事をした後に日向ぼっこをしてたのだが、ミハエルと一緒にまた昼過ぎまで寝るつもりなのだった。


アオの睡眠は非常に不規則だった。眠くなったら寝て、目が覚めるとそれが何時であろうと関係なく起き、仕事をして、眠くなればまた寝るという形だった。


その為、二時間三時間程度の睡眠を一日に三回ほどとるということも多い。


医師などが見れば、


『健康を損ねますよ!』


とたしなめそうな生活サイクルだったが、実は彼女の体は花粉症を除けば健康そのもので、風邪すら滅多にひくことはなかった。どうやら今のサイクルが彼女の体には最も適しているらしい。


彼女の体調に問題がないことを察しているミハエルも、特にあれこれ言うことはなかった。


最初の頃こそは、


『大丈夫?』


と心配そうに訊いてきたものの、今ではそれこそ何も言わない。


こうしてミハエルが寝る時に、甘えるようにして一緒に寝ようとすることも完全に受け入れていた。


「あったかい布団の中でひんやりとしたミハエルの体に触れるのがすっごく気持ちいいんだよね~♡」


吸血鬼の特徴らしい、低い体温が、ともすれば暑いくらいに暖かくなった布団の中では心地好いそうだ。


なお、吸血鬼の体温は通常は人間では有り得ないくらい低いのだが、激しく動く時などではやはり人間では有り得ないほど体温が高くなる。これは、普段はエネルギー効率が優先されて抑えらえているものの、必要とあれば凄まじいエネルギーを一度に発生させるゆえのものであると考えられていたのだった。


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