そんな奴は認めない!

「しかもその彼は、<仮面ラ〇ダー>の面白さを私に滔々と説いて、当時、<仮面ラ〇ダー>をよく知らなかった私に興味を持たせるきっかけをくれた人物だった。


そして、


『あれのどこが面白いんだ?』


と訊くから、私は自分が面白いと思った理由を語ったのだ。


なのに、彼は、<響〇>の面白さを説明しようとする私の言葉に耳を貸さず、


『あれは<仮面ラ〇ダー>を穢してる! あんなものを好きだとか言う奴は、<仮面ラ〇ダー好き>じゃない! 僕はそんな奴は認めない!』


とまで言いのけたのだ。


それで私は学んだよ。


『ああ、最初から否定で入ってる相手に何を説明しても無駄だ』


とな。


そもそも『駄作だ』という結論ありきで考えを改める気などないのだ。<面白いと思う理由>を尋ねるのも、


『自分は聞く耳を持っている』


という体裁を取り繕うためのアリバイ作りでしかない。


私はそれを思い知らされたというわけだ」


苦笑いを浮かべたまま、コーヒーカップを見詰めて話すアオに、さくらは、


「……そんなことがあったんですね……」


とだけ応えた。


アオは続ける。


「とにかく、相手の話を聞く気がある人間は、そもそも他人を頭から馬鹿にしたりしない。他人が面白いと思うもの、好きなものを貶したりしない。


つい貶すような言い方をしてしまっても、すぐにそれを改めることができる。


相手の話を聞かない人間がそれをしないのは、ひたすら貶すのは、聞く気が無いからだ。


だから私はもう、話を聞く気がない人間とは話をしない。説明もしない。無駄な労力を割いて神経をすり減らす価値もないとしか思わない。


私がここまで話せるのは、お前だけだよ。さくら……」


そう言って視線を上げ、アオは少し寂し気な表情で微笑った。


そんなアオに、さくらは尋ねる。


「ミハエルくんよりもですか?」


その問いには、


「ああ…そうだな。


なにしろミハエルには、私の<趣味>の話は通じないからな」


とやはり苦笑いになってしまった。


「なるほど、道理ですね。彼にはラノベや漫画やアニメの話は、ほとんど呪文のようなものでしょう。エンディミオンもそうです」


「ミハエルもエンディミオンも、見た目は子供のように見えても、中身は<ジジイ>だからなあ」


「ホントにそうですね…♡」


と、二人して何とも言えない困ったような笑顔になっていた。


無論それは、ミハエルやエンディミオンを馬鹿にしているのではない。『気の置けない相手』だと思えばこその正直な言葉だった。


隣の部屋で二人の話を聞いているミハエルにも、それは伝わっていた。


ミハエルはむしろそんな二人のことを『愛おしい』と感じ、クスクスと笑っていたのだった。


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