望まれずに生まれてきた者が
『あのストーカーがマンションを突き止めたみたいです!』
さくらからそう連絡を受けて、さすがにアオも、
「え…!?」
と声を上げてしまった。
しかも、スマホから漏れる声を聞き取ったミハエルが、
「アオ……」
彼女の傍に寄り添う。
そんな彼に、
「いよいよその時が来ちゃったみたいだね……」
と告げる。
「エンディミオンが言うには、まだ部屋までは突き止められてないみたいです。だけどさすがにずっと張り付かれたら遠からず部屋も突き止められるでしょうね……」
さくらの言葉もどこか上の空で聞いていた。
しかし、それもほんの数瞬だった。
「ありがと。教えてくれて助かった。これでいよいよ腹が据わったよ。明日にはもう物件を決めて、引っ越し作業に入る」
いつもの<作家先生キャラ>も忘れてそう言ったアオの表情は、強い意志を感じさせるそれになっていた。
だが、それで納得いかなかったのはエンディミオンだった。
「なんだつまらん。もっとこう、オタオタオロオロしないのか? 吸血鬼に与する人間が無様に慌てふためく様子を見たかったんだがな」
さくらのスマホから漏れ出る音声を聞き取って、肩をすくめながらそう言う。
そんな彼にさくらもついイラッとなってしまった。
「先生はあなたの思い通りにはならないから……!」
と、声を上げる。
それは当然、アオとミハエルにも届いていた。
「…エンディミオン、ごめんね。私達はあなたを喜ばすことはできないかもしれない。このくらいのことは、ミハエルと一緒に暮らすと決めた時に覚悟してるよ。私にとってはミハエルもあなたも<忌むべき敵>じゃない。今回のストーカーもそう。ただの<状況>の一つにすぎない。
私はね、<ガチャの外れ>として生まれてきたんだ。両親にとっては私は<外れ>だったし、私にとっても両親は<外れ>だった。
そのことに比べたらあなたやストーカーなんて、物の数じゃない。望まれずに生まれてきた者が自らを肯定できるようになった強さを見せてあげる」
エンディミオンにも聞こえることが分かった上で、アオはそう告げた。強い決意が込められた表情でそう言った。そんな彼女から発せられた言葉には、<言霊>と呼ばれるものが乗っていたのだろう。その言霊は、吸血鬼さえ恐れないバンパイアハンターであるエンディミオンすら圧してみせた。
「……!」
ほんの僅かとはいえ自らが圧されたことを察したエンディミオンが、ギリッと奥歯を噛み締める。
「ホザいたな、人間。ならば見せてもらおうじゃないか。お前の<強さ>とやらを……!」
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