彼とはまた
「先生にとっての<読者>とは何ですか?」
さくらが不意にそう問うてきた。
「先生は、『凡百な作品には満足できない層の読者の為に書いている』とおっしゃってますよね。
でも同時に、『読者の意見は聞き入れない』とも言う。
じゃあ、先生のおっしゃる<読者>とは、誰を指してるんでしょう?」
その問い掛けに、アオは、
「…そうだな。端的に言うなら私自身のことだな」
とすぐに答える。
「つまり、先生自身が読みたいものを書いていると?」
「ありていに言うとそういうことになる」
「それは、自分の感性に合わない読者は切り捨てるということですか?」
「切り捨てると言うと語弊があるかも知れんが、しかしそう受け取られる可能性があるのは私も分かっているのだ」
「分かっているのにそういう言い方をするんですか?」
「まあな。だが、私は一方的に自分の望むものが与えられて当然だと思ってる人間が嫌いなのだ、自分の思うものが与えられないからとキレる奴は嫌いだ。
批判はいい。意見を述べるのは構わん。だが、道理に合わん難癖をつける奴はカエレ!
とは思うな」
「私もそれは思いますね。建設的な意見ではなく、ただ貶したいだけの人っていますし」
「ああ。<信者>とかいう言葉を使う奴は殆どがそうだろう。あと、他作品を貶す奴も嫌いだ」
「いますね。応援してくれてるのはいいんですが、他の作品の作者さんやファンにケンカを売るような言動をとる方は困ります。
ですが、そういう方の中には、ファンのふりをしてただ他の作品のファンの方との対立を煽るのが目的という人もいらっしゃるみたいですけど」
「らしいな。だが、私の作品の読者であっても、他作品を貶す奴は要らん。カエレと言いたい」
「気持ちは分かりますけど、本当には言わないでくださいよ。大変なことになりますから」
「まったく…実に困った話だ」
「だけど、それで言ったら、先生自身がおっしゃった、『凡百な作品には満足できない層の読者の為に書いている』というのも、他の作品を<凡百>と言って貶してると受け取られかねませんよ。気を付けてくださいね」
「むぐ…っ! …それはまあ、アレだ…<言葉のアヤ>というやつで……別に貶すつもりは……
……そうだな。今後は気を付けよう……」
「はい、是非そうしてください」
などというやり取りについても、ミハエルは隣の部屋で聞いていた。聞くつもりはないのだが、聞こえてしまうのだ。
ただ、こうやって当たり前のようにこれまで通りのやり取りができるということに、彼もホッとしていた。あの、エンディミオンというバンパイアハンターもこの二人の邪魔をするつもりはないようだということを実感できたからだ。
『彼とはまた、話をしないといけないかもしれないね……』
とは、思いつつも。
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