得心

「はあ…どうしよう……」


物騒な少年?になぜか見込まれてしまって、さくらは途方に暮れながらシャワーを浴びていた。ざっと体を流して洗い、湯船に浸かる。


今さら『どうしよう』などと言ったところでどうなるものでもない。ついてきてしまったものは仕方なかった。


『信頼を得るってどうするつもりなんだろ……護衛って言っても何から守るっていうの?』


とは思うものの、それについても考えるだけ無駄だろう。


「やっぱり殺されちゃうのかな……私……」


冷静になって考えてみると、彼の気がまた変わって殺される可能性しか見えない。


「だからって先生のところには連れていけないよぉ……」


状況としてはただただ『詰んでいる』としか思えなかった。


涙が勝手に溢れてくる。


「……死ぬ前に、まともな恋の一つもしたかったな……」


いくら考えてもこの状況を覆す方法など思い浮かばず、ただただ時間だけが過ぎていく。


すると、


「おい、生きてるか?」


と、ドアの向こうから急に声が掛けられた。


「!?」


ビクンッと体が跳ねてしまうくらいに驚いたが、掛けられた声のトーンは思いのほか柔らかかった。


そのせいか、


「は、はい! 大丈夫です!」


と、普通に応えられてしまった。


しかも、


「そうか。ならいい」


返ってきたその言葉も、刺々しさが感じられなかった。普通に心配して声を掛けられた気さえした。


その上、


「風呂で事故死する奴は多い。特に冬場は、若い奴でも死ぬことがある。長風呂する時は水分補給に気を付けろ……」


などと、気遣うような言葉が。


『…え……?』


思いがけないそれに戸惑っていると、エンディミオンはさらに言った。


「俺は確かにこれまで多くの吸血鬼とそれに与する人間やオレに危害を加えようとする人間を殺してきたが、別に無差別に殺しまくってきた訳じゃないぞ。少なくとも今のお前を殺さなきゃならない理由はオレにはない。


その辺りはわきまえてもらいたいものだな……」


それは、どこか寂しげにも聞こえる口調だった。


瞬間、さくらの中で何かがストンとハマる感覚があった。


言われてみれば確かにそうだ。テロリストなどと戦って射殺することもある特殊部隊の隊員だって、だからと言って普段から人殺しをしている訳でもないだろう。


このエンディミオンという少年?の場合は少々極端かもしれないが、彼は自身をバンパイアハンターだと称していた。なら確かに、吸血鬼が本来の標的なのだから、それ以外の人間は、理由もなく殺す必要もないはずだ。


それが腑に落ちた途端に、彼女の中で恐怖がスッと収まっていくのが分かったのだった。




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