ドラマティックな話
蒼井霧雨は、いわゆる<おねショタ>と呼ばれるジャンルが好きだった。
と言うか、同年代以上の男性が苦手で、どうしても好きになれなくて、年下の
それなりの年代以上の男性はとにかくガサツでデリカシーがなくて自分勝手でそのくせ幼稚で、とにかく鬱陶しいことこの上ない。
しかも、そういうことを言うと『女だってロクなものじゃねぇ!』とか言ってキレるのだ。そういうところが嫌われるということを全く理解しようともしない。
さりとて、自分が<少年>に抱いている、『あどけなくて儚げで依存心が強い』というのもただの幻想だというのは分かっている。
『そんなのフィクションの中にしかいないよ…』
というのは重々承知していた。でもその上でなお、『カワイイ少年は尊い…♡』と思っていたのだった。
そんな彼女の前に現れた、<吸血鬼の美少年>。実年齢こそは自分よりずっと年上だということだが見た目にもその佇まいも自分が思い描いていた完璧な理想像なだけに、
『たとえ八十歳だろうが百歳だろうが、そんなの不老不死の吸血鬼なら普通じゃ~ん♡』
と割り切れてしまった。
その上さらに、身の回りの世話までしてくれるとか。
『生まれてきてよかった~♡』
と、見悶えるしかない。
洗濯ものを取り込んで畳んでくれているミハエルを見ながら、幸せを噛みしめていた。
でも、それにしても。
「それにしても、洗濯物を畳むのとかもできるんだ? 外国じゃとにかくハンガーに掛けてクローゼットに吊るすっていうイメージだったけど」
何気に気になったことを問い掛けてみる。
すると彼は、ふわっと微笑みながら、
「日本出身の友達に教わったんだ。出会ったのはシベリアだったけど」
と答えてくれた。
「シベリア…?」
「うん。日本軍の兵隊だったんだって。収容所に移送されてる途中で乗ってたトラックが事故を起こして、彼だけが助かったって。それで雪の中で倒れてたのをママが助けたんだ」
『日本軍の兵隊? シベリア? 収容所? それって第二次大戦の頃の捕虜収容所とかの話…!?』
さらっとそんな話が出てくるところに驚かされる。
『マジか~。なるほどこれは私よりずっと年上だわ~』
と実感させられた。さらに彼は続ける。
「彼の名前は宗十郎だって。それから十年ほど一緒に暮らして、その時に日本語を教えてもらったんだ。ママも曽おばあちゃんからいくらか教えてもらってて少しだけ日本語を話せたけど。だから宗十郎とも友達になれたんだと思う」
「はえ~…なんつードラマティックな話……」
などと、霧雨は感心させられるしかできなかったのだった。
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