第19話

 夏の予選敗退が決まったが、四軍部員は落ち込むことなく二学期の期末テスト期間にはいる。


 人生二週目の楽勝イベント、野球漬けの僕にとって小さなオアシス。


「誠ちゃーん! ここを教えてッッッ」


 部室から聞こえるむさ苦しい男達の合唱。


 どうしてこうなったぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ことの起こりは一週間前、予選敗退が決まった翌日のことだった。四軍部員の一人が一軍大山監督に


「負けて残念でしたね」


 と、いったことが原因だった。虫の居所が悪かったらしく激怒した。


 怒られた部員はどうせ昇級もできないので無視したのがさらに良くなかった。なんと、四軍部員に赤点をとった選手は夏休み全部補修という監督通達が来たのだ。


「誠ちゃん酷いと思わない? この仕打ちお俺ら四軍だけらしいよ!!」


 何人かの部員に通知された手紙をみせながら


「勉強すればいいじゃん♪」


 にべもなく答えると、俺たち腐っても推薦組だよ~勉強なんて出来ないよ。なんだか爆弾発言。


「中井君と秋山君は僕と一緒で一般入試組じゃないの」


 顔をしかめる。


「いやー野球馬鹿ですいません」


 あきれた奴らだ。赤点をとる確率が高い部員8名の戦いが始まった!


 うちの学校は付属私立校の割に偏差値がそれほど高いわけではない。授業の内容も一般校より低く感じる。しかし、赤点を取るぐらいの頭脳なので、今からすべての教科を教え直してテストに備えるにはあまりにも時間がない。


 学校の先生はすべて聖人君子ではない。毎年同じノート一つの教材を使って、ボイスレコーダーのごとく繰り返しの連続。テスト内容もこれいかに。


 そこで科目別の数学、英語の予想問題は完璧にできる。上の先輩とOBの家にもわざわざ足を運ぶ完璧主義な自分に涙。理科、社会 はボイス先生ではないが、試験範囲から絞るのは難しくない後は詰め込み教育。

  

 昼休み廊下を歩いていると大山監督とすれ違う。


「監督この通知は本当なんですか?」


 僕は女子力100%でもらった通知を見せる。


「ああ、本当だ文武両道がうちの基本だからな」


 さも出来る先生のように答える。


「私も試験があるのに教えるのに大変ですよ!」


 しなを作り怒ったふりをする。


「誠は偉いな」


 頭をなでられる


 き、も、ち、わ、る、い、


 四軍全員に予想問題を配り、怒濤のテスト週間が終わったころには、僕のオアシスは完全に干上がった。



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