第17話

 年に1度だけ一軍に混じって第一野球場で練習をする機会がある。それが新入部員を紹介すると同時に行われる組み分けテスト。この数年甲子園から遠のいているので監督、コーチ陣の選手を吟味する目は熱い。


 ただし三軍からは推薦組以外の新入部員が詰め込まれ、四軍から晴れて三軍に昇格という希望はほぼない。一応すべての部員にチャンスはあるという定ではあるが、四軍のバッティングテストを見ているコーチは、野球を知らない我ら四軍コーチという無理ゲーなシステム。


 四軍にいるとはいえ甲子園を目指して入部してきた部員が大半なので、新入部員より落ちるというレッテルは認めたくはない。


 僕も守備力からいえば一軍に負けていない。大勢の男子部員のなかたった一人の女子部員が混じって部活をすれば、某かの問題が起こる可能性を想定すれば外す方が吉。ただ四軍まで落とされる筋合いはないのだが……簡単に言えば僕は監督にはまっていない不要物なのだ。もし野球人生1周目なら一軍と対決という熱い展開もありそうだが、もう一つ上のステージを見て行動している僕には達観できている。けれどもこの日だけは猛の顔を正直見られなかった。


 椎名猛は大粒ダイヤの原石である。一年かけてようやく加工できるまで持って行くことが出来た。次に研磨という大切な行程が残っている。この研磨を失敗すれば光る物も光らない駄石になってしまう。


「四谷!こっちに来てッ」


 僕が呼ぶと後ろから怖ず怖ずと現れる。眼鏡をかけて少し肥満気味なこの男は野球部において異質な彼。


「四谷君て野球部員じゃないよね」


 笑顔で話しかけると真っ青な顔になる。


 四谷みのる……野球部員ではなく映像部である。彼の目的は誠のかわいい写真を撮ること。そう誠ちゃんファンクラブの撮影カメラマン。部員の半分は彼の存在を黙認して闇で僕のアレ写真が飛び交う。盗撮されているのは知っていたが、高校生のリピドーを人生経験倍の僕は優しく許していただけだ。


「今から撮影機材と部員数名引き連れてすぐに来てね。30分以内に戻られないと明日から高校に来なくなってもいいよね」


 僕は彼に冷たく微笑む。


「はひ~」


 といって彼は校舎に向けて駆けていった。


          *    *    *


「思ったより酷いね」


 映写室で別撮りした猛のピッチング映像を見比べる。


 彼の投球ホームがストレートと魔球を投げるときの投球動作の癖が明らかになる。肩の高さ軸足どこをとってもピッチングホームから球種が読めてしまう。


 どんな凄い球を投げることが出来ても、次に来る球種が分かれば打者は打たれやすい。高校生レベルなら球種を見分けるのは困難かもしれないが、プロ野球レベルになれば小さな癖も致命的である。


 時間をかけてじっくり強制していく。そして完成した暁にはとんでもない砦に変貌させる。今日最初の土を盛ることが出来た。












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