第8話

 今日も神奈川第三グラウンドから金属音が聞こえる。夏の全国高校野球大会は地方予選準決勝で破れ不甲斐ないと先輩達は泣いていた。僕はそれを見ながらこれを経験できないことに一抹の寂しさを覚えた。


「まだ走るのかよ!!」


 猛は僕に悪態をつく。でも一緒に走っている僕が涼しそうな姿を見せて自分が女性より劣っているのを実感させる。


 現代スポーツは科学で成り立っているといっても過言ではない。しかし、走って損をしたなどという人はまずいない。高校球児という伸び白を埋めるまで僕たちは走り続ける。それに僕が経験した理論をつければ完璧だ。


 四軍の中でも異端児になりつつある。いくつかの練習には付き合うが人手が足りているときは独自の練習。最初は白い目になったメンバーも僕たちの練習量を見て文句を言う部員はいなくなった。もちろん僕という武器あってのことだが……。


 西海大学付属湘南高校の野球施設は凄い。ただそれを部員だからと言って気軽に使うことは出来ない。一軍がダンベル練習をしていなくても四軍部員が勝手に使うことは出来ない。スポーツ封建社会ではルール違反だ。しかし、僕は社会人を経験している。


 いつでも筋トレ器具を使わせてもらうように野球を知らない四軍コーチに頼み込む。かなり渋い顔をされたが、部費は平等に払っている、高校PTAや選手会父兄にこの差別をどうなるか話をしたら気持ちよく了承された。ここで話を盛るなら嫌な一軍先輩と一悶着なんだが、逆に嬉しそうに筋力造りをレクチャーしてくれる先輩のほうが多かった。イヤー女ってこういうときはとくだね♪


 猛の一番の武器は何かと聞かれたら指の長さと数。しかし、今のままでは宝の持ち腐れ。指にチューブを巻いたりのばしたりして指先の強化を図る。地味なトレーニングなので家でするのが一番なのだが、誰も見ていないところで練習を続けられる野球馬鹿は少ない。だから猛と一緒にトレーニングにいそしむ。こういう努力はすぐに効果は出ないし、目にもつかないので半年ほど続けると投げやりになってくる。だから僕は


「女の子ってこうしてああして指でくんとしちゃうともうメロメロ」


 耳元で指使いのメリットをバイノーラル風に囁いてやると熱のこもった指先強化練習に早変わりした。

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