055  同じ日に同じ夢を見るということは非合理的な空想論であるⅪ

 先生はパソコンで検索けんさくを始めた。

「これを見ろ。お前が言っている事とは違うが、似たような体験をした人が世界には何人もいる。それにこういう研究は世界ではいくつかやっているところがある」

「へぇ……。じゃあ、俺が見た夢はそこまで珍しくないんだ……」

「そうはなるが……結局は珍しいと言ってもいいだろう。で、どんな夢を見たんだ?」

「そ、それは……。ちょっと……」

「恥ずかしい夢だったということか……」

「言っておきますが、健全けんぜんな夢ですよ」

 俺は否定する。簡単に変な意味に捕らえられると後が面倒だからな。

「ああ、分かっている。なら、簡単でいいから時間があるときでもいいからこの紙に書いてくれ」

「まあ、そう言いうのでしたら……」

 俺はそれを受け取ると、冬月の目の前に座った。

「ねぇ、昨日、何か変なこと起きたの?」

「いや、何でもない」

「そ……」

 冬月はいつもより顔が赤くなっており、言葉数も少なかった。それに今日は目を合わせてもくれない。

「どうしたんだよ。今日のお前、なんだか変だぞ……」

「き、気にしなくてもいいわよ。いつもの事だから」

「あ、そう……」

 俺はバックの中から本を取り出して、冬月の様子をチラチラと見ながら赤くなっている表情は絶対に何かあったのかと感じた。

「…………」

「…………」

 黙ったままの空間が何十分も続いた。俺は本を読むが全く頭に話が入ってこない。それは冬月も同じではないだろうか。あの夢を冬月も見ていたとするならば、俺は……。この場にいたくなくなる。

「それにしても今日は早く帰って、寝たいな……」

「そうね。私も同じことを考えていたわ」

「へぇ————」

 また、沈黙ちんもくが続く。しかし、これもまたいいのかもしれない。俺達は互いの事を検索しない方がうまくやっていくような気がする。それは彼女もそうだ。俺はそっと目を閉じて、この話は心の中に閉まっておこう。

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