第70話 TO BE CONTINUED

 アメリカ。


 マサチューセッツ州、コォルサム。


 ブーカーレーン・マイセオン本社。


 リチャード・スミスは副社長室の片付けをしていた。部屋には段ボール箱が散らかっている。


 暗殺は失敗した。


 振り込んだ前金は還って来ることはない。


 セドット・ゴリオン空軍基地の破壊工作は、上級役員会での決定にもかかわらず、情報が漏れ、スミス一人が責任を負う形となった。


 スミスは副社長を解任され、情報部部長に降格することになった。


 元CIA長官という肩書と人脈があるから、解雇されることはなかったが、奇跡でも起こらない限り、これからの出世は考えられない。


 一方、同じブーカーレーン・マイセオン社の副社長、キャスパーは、次期、国防長官候補に内定した。ボーピング社の副社長と同様、ムティス現国防長官の後釜だ。


(ちっ、なんで、あんな若造が国防長官なのだ)


 スミスが毒づいていると、内線電話が鳴った。来客らしい。スミスは、こんな時に、と思った。


「誰だ」

「サウジアラビアのコンタギオ様です」

「アポもないし、何者だ」

「アポはあります。お伝えしていますが」

「聞いてない」

「言いました」秘書の声が尖る。


 スミスは、しかたなく「通せ」と言った。


 一人の青年が入って来た。


 艶やかな金髪。優雅な立ち振る舞い。貴族のような雰囲気を持っていた。


「初めまして。ミスター・スミス。コンタギオと申します」


 彼はさわやかな笑顔で手を差し伸べた。


 スミスは握手をすると、彼に来客用の椅子を勧め、自分はデスクの奥の椅子に腰かけた。


「それで、えー、ミスター、コンタギオ。どういったご用件で」

「ええ、ミスター・スミス。突然で申し訳ありませんが、貴方は、ティリエルをご存知ですね」


 スミスは表情を固まらせた。


 彼は両手を組み、厚い瓶底のようなメガネの奥から、コンタギオが何者か探ろうとした。


 ティリエルに暗殺を依頼した事は極秘だ。社内で知るものは、社長のキッシンジャーと自分の二人しかいない。


(なぜ、知っている。ティリエルが漏らしたのか……、まさか……)


「答えなくても結構です。彼がイスラエルを発つ所までは、何があったか、すべて筒抜けですから」


 スミスは、組んだ手を解き、机の下に持って行った。引き出しには拳銃が入っている。


「あ、誤解されないでください。私は貴方の味方です。お互いの利益になるビジネスを提案しに伺ったのです」コンタギオは愛想よく笑った。

「と、言うと」


 コンタギオは席を立つと、スミスに近づいた。


「貴方は、力と成功を手にします。それも、今までの記憶を持ったままです」


(今までの記憶?)


 スミスは疑問に思った。


「そして、私は、新たなる忠実なる子エクエスを手に入れます」


(エクエス? ラテン語で騎士? どういう意味だ?)


「いかがです? 貴方は、力と成功を望みますか」


 コンタギオは、一瞬、副社長室の入り口に目を向けた。ドアがしっかり閉まっているか確認したようだ。


「詳しく知りたいですか」


 声を潜めるので、スミスは、聞くだけならと思い、小さく頷いた。


 コンタギオはスミスに近づき、彼の耳元に顔を寄せた。そして、甘い声で囁いた。


「誤解されないでください。復讐ではありません。慈善活動です。宝くじと言っても良いですが……、うまく行けば、もう一つ、貴方に素敵なプレゼントを差し上げましょう」


 スミスは「何だ?」と横目でコンタギオを見た。


「……ティリエル……、新しい名前です……。お気に召すと嬉しいです」


 そう言って、コンタギオは爽やかに微笑んだ。




 TO BE CONTINUED










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