51話「過去の産物」
1月10日(月)
短い冬休みも終わり、いよいよ学校が始まってしまう。休みボケをしながらも、俺は目覚まし時計によってなんとか目を覚ます。そして眠い目をこすりながら制服に着替え、リビングへと向かった。リビングには
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食事も終わり、食器を片付けも終わったので、俺は学園へ行くことにした。いつもの並木道にさしかかると、そこには最近仲良くなったあの人が歩いていた。
「よっ!
後ろから早足で彼女に近づき、軽く肩を叩いてそう挨拶をする。
「あ、おはよう
「まあ、そうだな」
「ね、せっかくだし、一緒に行かない?」
「いいよ、1人だとつまんねーしな」
「じゃあ、いこっか」
俺たちはそれから肩を並べ、通学路を歩き始める。
「――学園に行くのって、久しぶりだよねー」
そして岡崎は道中、そんな話を振ってくる。
「あーそういや、肝試し以来だっけ」
その話で肝試しの時のことを思い出しながらそんなことを呟く。
「そ、そうだね……」
自分から話を振っておいて、露骨にテンションが下がる岡崎。『肝試し』ということで、あの日のことを岡崎も思い出したのだろうか。
「あっ、ああ、ええと、みんなに会うのも久しぶりだよな」
それを見て、俺はなんとかしようと、うまいこと話を変えてみる。
「うん、そうだね。冬休み中、みんなと会ってないから楽しみだなー」
「そだねー」
「あっ、そういえば、明日美先輩あれから大丈夫だった?」
「え?」
「だって私、大晦日以来会ってないから。大丈夫だったのかなーって」
大晦日といえば、おそらく明日美が甘酒で酔ってしまったことだろう。翌朝まで眠ったままだったから岡崎もそれが気がかりだったのだろう。
「ああ、別になんともなかったよ」
明日美はしばらく寝たままだったが、酔いが覚めたのか帰ったころには普通に起きてきたし。もっとも、酔っていた時の記憶はすっぽり抜け落ちてたみたいだけど。
「そっか、それはよかったね」
「まあ、あれにアルコールは入ってなかったし、大丈夫でしょ」
「そうだね」
「そういやさ、それで思い出したんだけど、勉強会の話ってどうなった?」
たしか『休み明けまでに考えておいて』と言ったきりそういえば連絡がなかった。岡崎の都合もあるだろうから、別に俺はおじゃんになっても構わないけど、どうなってるかだけは知りたかったので訊いてみた。
「ああ、それなら16日が大丈夫なんだけど、どう?」
「うん、いいよ。俺はどうせ暇だから」
「ふふ、じゃあ決まりだね! 後、その勉強会に
「ああ、いいよ。大人数の方が協力し合えそうだしな。でも、場所はどうすんの?」
日にちはもちろん勉強会をする場所すら決めていなかったので、発案者に訊いてみる。そう考えると、俺たちは全くのノープランでそんな約束をしていたんだと実感する。
「んー……あっ、じゃ、じゃあさ……私の家、なんてどう?」
恥ずかしそうに上目遣いでそんなことを訊いてくる岡崎。まさかの同世代の女子からのお呼ばれである。もちろんそれを断るバカなどいないわけで……
「お、岡崎がよければ」
快くそれを了承する。
「うん、決まりだね……」
岡崎は恥ずかしくも嬉しい、そんな感じの表情でそう言った。
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全校集会が終わり、やらなくてもいい授業を済ませ、時はすでに昼休みを迎えていた。俺はまず昼飯を調達するためにコンビニ向かう。ただでさえ腹が空いているというのに、歩いて余計に腹が減ることになってしまった。帰ってくる頃には腹はペコペコ。とっとと飯にありつきたい。
「煉、早くしろよ、腹減ったー」
教室に着くと、
「なんだ、待っていたのか。先食ってりゃよかったのに」
特にそう言ったことを修二に言わなかった俺も悪いが、修二も修二で気にしないで食べていてもよかったのに。別に絶対に一緒に食べなきゃいけないなんて、小学校みたいな決まりごとはないんだし。
「ま、俺は優しいからな、待ってやってたんだよ」
「はいはい、そうかい。んじゃ、飯食うか」
そのちょっと偉そうな態度がムカついたので、いつも通り適当にあしらいつつ俺は飯を食べ始める。
「くそ、スルーすんなよ!」
いつものやり取りをやりつつ、俺たちはお昼休みのひと時を過ごしていた。そんな中、隣で食べている岡崎たちが妙に俺の話をしているような気がする。バレない程度に横目でチラッと見ると、あちら側も俺をチラチラ見ては何かを話しているようだ。この距離だから、途切れ途切れに内容が聞こえてきてしまう。だからちょっと気になりながらも、俺はあくまでも知らないフリを続けた。すると一緒にいた石川が席を立ち、自分の席へ何かを取りに行ったようだ。そして残った高坂と岡崎が完全に俺の方を見つめてくる。
「ねぇ、煉くん、ちょっといい?」
そして高坂がいよいよ俺に話しかけてきた。どうやら俺に何かしらの用があるようだ。
「ん、どうした?」
俺はあくまでも今まで気づいていなかった体で会話をする。そしてその会話をしている最中にも石川は自分の席から何か手帳のようなものを持ってくる。
「あのね、これ見てほしいんだけど」
高坂がそう言うタイミングでちょうど石川が来て、その手帳を開いて見せてくれた。その中にはある1枚の写真が入っていた。俺はそれを手にとって写っているものを確認する。そこには、石のようなものにアルファベットの文章が書いてあるものが写っていた。
「なんだ、これ?」
「静ちゃんのお母さんって、考古学者なの。それでね、これが最近、この島で発掘されたんだって」
俺の疑問に、高坂がそう補足する。
「へぇーで、これは何なの?」
この島にそんな謎めいた神秘的なものがあったとは。しかも発掘されたっていうあたり、だいぶ昔のものなんだろうし。
「それがね、教えてくれなかったの。この写真を見れば分かるって言ってたんだけど、さっぱり分からなくて」
「ふーん。んじゃ、何でこれを俺に?」
「煉くん、頭いいからこの文が解けるんじゃないかなーと思って」
そういえば石川と高坂はオカルト研だったか。こういう系統の話は好きなんだろうな。でも自分たちじゃお手上げだから、俺に白羽の矢が立ったと。
「まあー解けないことはないと思うけど、これの文どこかに書き写してない?」
如何せん写真の画質の問題もあるし、それに石を削って書かれている文字だから読みにくい。だからもうハッキリと紙に書かれてあれば、そこの面倒な部分をスルーできるからそう訊いてみた。
「私がルーズリーフに書いてあるけど……」
幸運にも高坂がそれを書き写してくれていた。高坂は自分の席にそのルーズリーフを取りに行く。その間にも俺は買った残りの昼食を食べていた。下手すると、これの解読で飯食ってる時間がなくなるかもしれないしな。そして数十秒ほどして、高坂が戻ってきて俺にその紙を手渡してくる。
「はい、これ。でも煉くんホントにできるの?」
「うーん、ま、めんどくさいし、頭使うけど……たぶん」
俺はその文を見て改めて確信した。これはシーザー暗号で作られた文章だ。それにしても最近俺はシーザー暗号に縁があるな。科学部の時といい、今回もそうだ。この島の人間はシーザー暗号が好きなのだろうか。そんなことを思いながら、俺はその文章を自分のルーズリーフに書き写し、元のものを高坂に返す。
「ねえ、この文ってなんなの?」
石川は俺がシーザー暗号の解読をしている最中、そう訊いてきた。
「ああ、シーザー暗号だよ、知ってるだろ?」
オカルト研ならば、こういうことは詳しいだろう。たぶん俺よりももっと詳しいんじゃなかろうか。
「私たちもそう思ってやってみたけど、ダメだったよ」
「え? まじで……」
高坂が解読中にそう言ってきたので、俺は一回試しに一番最初の文である、『RGXNVLHPDQBPGQDGQDOVLVLKWIRJQLNDPDL』を解読してみることにした。そうすると、
『ODUKSIEMANYMDNADNALSISIHTFOGNIKAMAI』
という結果になった。高坂の言う通り、たしかに意味が通った文章になっていない。
「なあ、シーザー暗号って何だ?」
俺はそれにガッカリしている時、修二がそんなことを訊いてくる。ふと隣の岡崎を見ても同じく分からなそうな顔をしているので、2人ともそれを知らないのだろう。
「ああ、それは――」
俺はいつぞやみたく、つくし先輩に言ったような説明をした。その説明を受けた修二や岡崎は難しそうな顔をしていた。んーむ、やはり俺には説明はムリか。
「でも、煉くんはなんでシーザー暗号って分かったの?」
そんな中、岡崎がそんな疑問を投げかけてくる。
「ああ、この文章が仮に英語だったなら、普通QとかZとかXとかは出にくいんだよ。で、逆にシーザー暗号だと出やすくなるの」
これはQ、X、Zなどが、解読すると英語でよく使うT、A、Cになるから。ただしこれは3文字でAからZ方向へのずらしの場合だけど。
「ふーん、すごいね」
「ねえ、ずらしの数を増やしたりとか減らしたりとかした?」
シーザー暗号の難しいところはずらす方向と文字数。それが必ずしも一定ではないから、その淡い望みにかけて訊いてみる。
「うん、でもどれもダメだったよ」
「その文章は煉くんの言う通りだから、たぶんシーザー暗号だと思うんだけど……」
どうやら石川も高坂も色々と試行錯誤してみたがダメだったようだ。こうなってくるといよいよ一筋縄では行かなくなってくる。
「うーん…………ん?」
どうしたものかと途方に暮れ、解読後の文字を凝視していると、俺はあることに気がつく。
「どうしたの?」
石川も俺の様子に気づいたのか、そう訊いてきた。
「あっ、これ、逆にして読んでみて」
「ええと、『IAMAKINGOFTHISISLANDANDMYNAMEISKUDO』って、あっ!」
どうやら、石川も閃いたようだ。これを逆にして読みやすくすると、
『I am a king of this island and my name is Kudo』
となり、これでようやく普通の英文となった。これはとてつもなく面倒な暗号文章だ。1回1回文章を逆にしなければならないのだから。その作業が半端じゃないくらいめんどい。
「すごい、煉くん……解いちゃうなんて……」
高坂も驚いた様子で、そう呟いていた。
「お前、すごいな……」
「うん、すごい……」
修二や岡崎も俺が解いたことを賞賛する。そんなに大したことでもないのに、でも褒められるとやっぱり嬉しく、照れてしまう自分がいた。
「や、たまたまだって。なんか、パッと閃いたんだよ」
そんな言い訳をしつつ、俺は次の文章へと取り掛かった。もちろんシーザー暗号を理解している石川や高坂にも手伝ってもらう。ただ如何せん、文章の量が割りとあり、しかもそれを反転させなければならないので時間がかかった。結局、全ての文章を解読し終わる頃にはもう昼休みも終わりを迎えていた。ただ、この文章にはまだやることが残っている。和訳だ。これは英語の文章だから、分かりやすくするためには日本語へと訳さなければならない。まだ面倒な作業が残っていることに絶望を感じつつ、俺は午後の授業を受けることとなった。
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