49話「初詣」

 初詣にはやはり人が多かった。下手すれば、島の人間全員集まってるんじゃないかと思えたほどだ。これは確実にはぐれる危険があるな、と思いつつ歩を進める。そして当の岡崎おかざきはやはりダメなようで、気分悪そうな顔をしている。


「岡崎、大丈夫か? やっぱり、帰るか?」


「大丈夫、私は気にしないで! ほら、だったら早くいこ!」


 ちょっと我慢している気もするが、岡崎は笑顔を作ってそう俺を急かした。


「お、おう」


 彼女からそう言われてしまえば、俺はもう何も言うことはできない。岡崎のことが気になりつつも、俺たちはそのまま神社の前へと歩き始めた。やはり人がごった返していて、思うようには前へ進むことができなかった。


「――よしっ、ようやく着いたぁー……」


 それからどれぐらい経っただろうか、やっとの思いで賽銭箱の前に到着した。そしてみんな賽銭を入れ、手を合わせて祈る。


「――みんな、なに願った?」


 祈り終わると、子供みたいに早速ニヤニヤしながらそんなことを訊いてくる修二しゅうじ


「秘密よ、いったら叶わなくなるもん」


「私も……一緒かな」


「私も……」


 女子チームは意外と口が堅く、誰も内容を明かさなかった。

 

「俺は家族の安全祈願を……そういうお前は?」


「まあ、俺も秘密だけどな」


 あろうことか、修二本人すら願い事の内容を言わない始末。コイツ、意外とさっき渚が言った『願いが叶わなくなる』を信じているクチだろうか。女子ならまだかわいいで済むものの、男だと流石に気持ち悪く思う。


「じゃあ、訊くなよ……」


 そんな修二に呆れつつ、それからおみくじをすることに。おみくじの結果は俺が大吉、修二が凶、なぎさが吉にみおが中吉、岡崎が大吉だった。修二はその運勢の悪さに落胆し、岡崎は逆に大はしゃぎ。諫山いさやま姉妹は『こんなもんか』みたいな顔をしていた。そして俺のおみくじのその内容は


『恋愛:あなたの努力次第で結ばれる。

待ち人:すぐに来る。

失せ物:もう既に近くにある。

学問:努力すれば良し。

病気:治りは早い。』


 とめぼしいところはこんな感じだった。恋愛が『あなたの努力次第で結ばれる』というのが気になる。今年はもしかすると、もしかするかもしれないな。何事も慎重に事を進めていこう。俺はそう決意し、そのおみくじをポケットにしまった。


「はーあ、お前はこんなところでも運がいのかよ……」


 凶の修二はいつもみたく俺の結果に嫉妬をする。はたして思うのだが、こういうものに運は関係あるのだろうか。


「たまたまだよ、それよりお前は厄落とししたら?」


「そうだな、ちょっと行ってくるわ」


 そう言って、修二は人混みの中へと消えていった。そして諫山姉妹も見ていきたい所があると言って、そのまま2人で出店の方へと行ってしまった。


「あ、そうだ岡崎。さっきは悪かったな」


 2人きりになったところで、俺はあの例の事を謝ることにした。不本意で、しかも俺が原因ではないとはいえ、あんなことをしてしまったのは岡崎に申し訳なかった。だからちゃんと直接謝りたかったのだ。


「あっ、ああ、あれは気にしてないよ……」


 せっかく忘れていたのに、それで思い出させてしまったようだ。岡崎はまた顔が赤くなり始めている。逆に余計なことをしてしまったかもしれない。


「あっ、そのー……ゴメン……」


 俺はもうただひたすらに謝ることしかできなかった。


「あっ、あのさ……ありがとうね」


 だが意外にも、岡崎は俺に感謝の言葉を述べてくる。相変わらず恥ずかしそうにしているが、その時だけはちょっとだけ笑顔を見せてくれた。


「えっ?」


 でも、俺は感謝されるようなことはした覚えがなかった。だからその岡崎の言葉に戸惑っていた。


「わざと口からずらしたでしょ? 後、人混み心配してくれたし」


「あっ、ああー友達でもキスはマズイでしょ、やっぱ」


 岡崎もあの状況で気づいていたようだ。たぶんあの渚たちの反応からするに、本当にしたんだと思っているだろうから、一応俺の作戦は成功していたわけだ。これで王女の明日美が起きててくれば完璧だったんだけどなー、まあ過ぎたことはしょうがないか。


「うん、そうだね。これからどうする?」


「岡崎は大丈夫なのか? ヤバかったら帰るぞ?」


「ホントに大丈夫だから。でも優しいね……煉くんはホントに……」


 しみじみとした表情でそんなことを呟く岡崎。


「や、そんなことないって……俺はこれぐらい普通だと思うよ」


「でも、それが私にとっては優しいんだよ……」


 そんな褒めちぎる岡崎に、俺は思わず照れてしまう。そんな照れを隠すため、俺は岡崎と共に出店へ向かうことにした。結構、色々とみて周り、食い物系ではなく、ゲーム系を一緒にやっていた。ただやはり人が多いので、なるべく岡崎に負担をかけないように、ある程度やったら帰ることした。

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