47話「修二の企み」

 それから俺たちはテレビの年末特番を見たり、トランプをしたりして年明けまで時間を潰していた。食事も6人いて、さらに修二しゅうじのおかげか、完食してくれた。そうなると、やはり作った甲斐があるというもので、俺としても嬉しかった。そんなことを考えていると、明日美あすみがキッチンから甘酒をもってきれくれた。


「はい、甘酒よ」


「ありがとうございまーす」


 それに、みな口を揃えてそう言った。


「作っててくれたの?」


「うん、温まるだろうから」


「そっか、ありがとう」


 そういって、俺は甘酒を飲んだ。飲んだ瞬間、俺の体が一気に温まっていく。やっぱり、寒い冬にはこれはいい。みんなも同じように甘酒を飲んで、火照った顔をしている。


「ふふ、おいしぃーねぇー」


 明日美もその甘酒を口にする。したのはいいのだが、どういうわけか、明日美はろれつが回らなくなってしまう。しかも頬も赤いし、目が座っている。これは明らかに酔っている症状だ。秋山あきやま家は酒に極端に弱く、酔ってしまう家系なのだが、これにはどう考えてもアルコールは入っていない。まさかこの人、甘酒でも酔えるのだろうか。


「明日美先輩、大丈夫ですか?」


 他のみんなも明日美の異変に気づいたようで、なぎさは心配そうに見つめながら不安気にそう聞く。


「ふぇ? だいじょーぶらよぉー」


「甘酒で酔う人初めて見たわ……」


 修二もその光景に驚きというか、どこか引いてる様子だった。


「大丈夫かな、明日美先輩」


 岡崎おかざきも心配そうに言いながら、明日美を見つめていた。


「ま、まあ大丈夫じゃね? ただ酔っているだけだし」


 アルコール自体は飲んでいないのだから、大丈夫だろう。言ってしまえば、雰囲気酔いみたいなもんだろうし。特に実害はないだろう。


「そっか、でもこれ以上飲ませない方がよさそうだね……」


 岡崎はそう言って、明日美のコップを取り上げる。


「えぇーなぁーんれー? もっと飲みらーいぃー」


 それにまさかの明日美が幼児退行し始める事態に。こんな明日美、俺でも初めて見る。


「はいはい、明日美は適当なジュースでも飲んどけ、とりあえずこれは没収」


 俺はまるで親のように明日美をなだめながら、岡崎の取ったコップを俺がもらい、そのまま明日美の分を飲み干した。それに明日美はとても残念そうな顔つきで俺を見つめていた。そしてなぜか今度は修二が俺のことを指差して、口をパクパクさせている。さらにさらに他の奴らを見てみると、同じ感じで驚いている様子だった。


「ん? どうしたんだ? 修二」


 その事態を俺はよく飲み込めず、修二に訊いてみる。


「なっ、おっ、おお、おま、お前! かっ、かかかか、かん――」


 もう何言ってるかさっぱり分からんかった。明日美みたい、というのちょっと違うが、しどろもどろになっている。それをいぶかしげにみつめていると、みおが俺に耳打ちをしたいようで、手を自分の口に当てて寄ってくる。


「たぶん、明日美先輩と間接……キスを……したっていいたいんだよ」


 澪は恥ずかしそうな感じでそう言ってきた。


「はぁ? 別に姉弟なんだし、それぐらいいいだろ」


 俺と明日美は家族である。関節キスなんて別に気にすることでもないだろう。ぶっちゃけ、食べ比べみたいなので結構やってるし。


「でも、それぐらいが大きいんだと思うけどね」


 渚はなぜか俺に呆れながらそう言ってきた。


「ま、まあ、そんなことより、盛り上がってきたことだし、ゲームしようぜ!」


 修二は落ち着いたのか、ようやくいつも通りに戻り、そんな提案をしてきた。なにが『盛り上がってきた』のかよくわからないが、たぶんこれが修二の隠していたことなのだろう。


「ゲーム? 何すんだ?」


 もちろん6人いるのだから、みんなで出来るゲームなはず。そんな大人数で出来るゲームって、結構限られてくると思うけど。それに修二の持ってきたやつなんだから、ちょっと下心的なやつも入ってるんだろうし。でも、それが何なのかまではわからなかった。


「煉、『王様ゲーム』って知ってっか?」


「あぁ、たしか、だいぶ昔にコンパとかで流行ってたっていうゲームだろ?」


 たしか、この島が出来上がる前ぐらいに流行ってたって聞いたけど。でも、なんで今さらそんな昔の遊びをやるのだろうか。


 ――あっ、そうか、なるほど。ゲームの内容と、こいつの狙いを考えればすぐにわかった。


「お、知ってんのか。んじゃ、分からない人のために説明してくれ」


「おう、確か――」


 ゲーム内容は参加者が数字と王様とかかれたクジを引き、一旦それを他の誰にも知られないように自分で確認する。そして『王様だーれだ』の合図と共に、王様の人は自己申告をする。そしてその後、王様は数字を持った人たちに自由に1つ命令する事ができる。もちろん『王様の言うことは絶対』その命令には従わなければならない。それがたとえどんな命令であったとしても。修二よ、完全にこれでエロいことするのが見え見えだ。


「へぇーなんか面白そうね」


「王様ならいいけど、数字だとこわいねー」


 意外にも、ゲームの内容を知らなかった女子たちも好評で、ノリ気だった。


「まあ、でも王様になればなんでも命令できるからな」


「んで、クジはどうすんの?」


「本来なら割り箸とかだろうけど、今はないから紙で代用するぜ、んじゃ早速やっていくか!」


 そう言って、修二は紙に番号と王様を書いていき、その紙を混ぜていく。俺としては修二に配る役をやらせるのは、なんか不正されそうで不服だったが、最初は大丈夫だろうとそのまま流した。そして俺たちは修二によって配られた紙を他の人たちに見られないように、確認する。俺は残念ながら1番であった。つまりは王様の命令対象となる、警戒せねば。


「みんな、確認したな。じゃあ、せーの」


「王様だーれだ?」


「はーい、私!」


 勝ち誇ったような顔をしながら渚はその『王様』と書かれた紙を見せる。とりあえず、これで不正がないということはわかった。それに渚が王様ならそう度を超えた命令はしてはこないだろう。俺は完全に安心しきった状態で、渚の命令を待った。


「んー……じゃあ5番の人が腕立て10回で!」


 最初はウォーミングアップ、こんなもんからだろう。なんとか俺は命令を免れた。そして次に「5番だーれだ?」の合図で、その番号に該当する人が自己申告をする。ちなみにそれは澪だった。


「えぇー、腕立てできないよぉー」


 まさかの妹に命令するという、なんか普段とあまり変わらない力関係になった。澪は困ったような顔しながら、そんな弱々しいことを言う。


「ほら、がんばる!  それに王様の命令は絶対だよ!」


 渚も良いように、お決まりの言葉を使う。これは後々、自分が命令される側になったら後悔するやつだ。その一方で、それで観念した澪は渋々ながらも腕立て伏せを始める。もっとも、膝をついてやる簡単なやつではあったが、最初だし十分だろう。それが終わったところで2回戦に突入する。俺は修二の不正を狙っている可能性も考え、すぐさま俺が紙を回収し、俺が配り役を買って出る。


「王様だーれだ?」


 その合図に、俺は手を挙げ、紙を見せる。修二の不正を気にしたら、俺がまさかの不正疑惑が持たれそうなことになってしまった。まあ、いつもの幸運体質ってやつだろう。ただ、これが連続で続かれると不正騒ぎになるからやめてほしいけれど。


「んー何にするかなぁー………あっ、じゃあ、1番の人がものまね10連発で」


 何にするか頭で必死で考え、出たのがそれだった。さっきお笑い番組を見ていた影響かもしれない。その命令をした途端に、修二が露骨に落胆しだす。どうやら、コイツが1番さんのようだ。


「おい、それは厳しくね?  せめて1つだけで」


「だめだぞ、王様の命令は絶対だ!」


「くそ……鬼畜だな……」


 そういつつも、修二は10連発ものまねをちゃんとやっていた。まあ素人の芸なので、似てはいなかったが意外と面白く、みんなそれに笑かされていた。


「はは、木下くん、おもしろーいぃ」


 今もなお、絶賛酔っぱらい中の明日美もそれを見ながら笑っていた。ただ、目がとろんとし始めている。これはそろそろダウンの予感。


「ぜんぜん、似てないしー」


「ふふ、でもおもしろいね」


「そうだね、おもしろい」


 渚、澪、岡崎も笑いながらそんな感じで言っていた。意外や意外、結構これが好評だったようで、場の空気が盛り上がっていた。修二はやり終えた後『王様になったら復讐してやる!』といっていた。もっとも、王様になれれば、の話だが。それから俺たちは時間も忘れ、王様ゲームを楽しんでいた。

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