第10話

「相変わらず泰葉は肉食だね」

「まあ、泰葉だからね」


 聡美と和希は、確か小学校から

泰葉と同じはずだ。


「あのさ、梨香ちゃん中学のとき……」

「知ってる。泰葉、自分より可愛い子嫌いだからね。ちょっとやり過ぎてたよね」

「だね。でも、わざわざクラスまたいでイジメにはこないでしょ。うちらも見張っとくし」

「クラスには泰葉一派もいるけど、泰葉いなければおとなしいもんだしね」

「そっか。梨香ちゃん、この二人はサバサバしてるし、いい子達だから大丈夫だよ」

「なによ、愛実お母さんみたいじゃない。でもさ、あんた梨香ちゃんと仲良かったっけ? 」


 聡美が首を傾げる。


「あのね、愛実ちゃんの彼氏が俊ちゃんなの。それで仲良くなったのよ。それに、この前知ったんだけど、幼稚園も一緒だったの」


 学校では、俊と愛実は恋人同士で通すと言ってあったせいか、梨香も二人が恋人であることをアピールする。


「愛実があのイケメンの彼女だって?! 」


 和希が大声を上げ、教室がシンとなった。

 泰葉の笑顔もひきつっている。


「いや、まあ、何て言うか……」


 俊がすかさず愛実に声をかける。


「愛実、そろそろ教室に戻らないと、本鈴に間に合わないぞ。じゃあ梨香、また昼休みくるからな」


 俊もその一瞬の静寂を利用して、素早く愛実の元に来る。


「でも、まだ予鈴の前だし」

「じゃあ、梨香をよろしく」


 俊は愛実の手を引っ張り教室をでた。


「ちょっと、梨香ちゃんと約束したじゃん! 」


 階段をバタバタと下り、校舎をでたところで、俊は一息つく。


「あれ、あんなのが束になってウジャウジャと……。コワッ! 」


 なにやら俊は取り乱している様子だ。若干顔色も悪い。

 泰葉のことだと思うが、なにか女子トラウマに引っ掛かったのだろう。


「聡美と和希なら、小学校から泰葉といっしょだから、そう負けないと思うよ。泰葉の取り巻きくらいなら、撃退できるでしょ」

「……それなら良かった。ついでに俺も守ってほしいよ」

「あんたの女の子避けに私がいるんでしょ? 」

「そうだった。いやさ、梨香のことを考えると、下手に冷たくしてイジメにつながってもって、かなり我慢して話してたんだけどさ。ほら、鳥肌おさまらない」


 確かに、俊の腕には鳥肌がびっしりうかんでいた。


「なんだ、てっきり泰葉のブリブリに騙されたのかと思った」

「なわけないだろ。あれは、俺が一番苦手とする人種だ」


 愛実は笑った。

 少しホッとしている自分もいる。でも、なぜホッとしているのかわからなかった。


「たぶん、女子は梨香ちゃんとは仲良くなりたいはずだよ。俊君とのパイプになるからね。だから、きっとクラスにも馴染めると思うよ」

「そうだといいけど」


 俊は、さりげなく愛実の手を握った。


「なんで恋人繋ぎ?」


 愛実は、心臓がバクバク言うのを隠しつつ聞いた。


「だから、女子避けだって。もっとガンガンアピールしないと、ああいうワガママ女は遠慮なくやってくるから」


 確かに、泰葉なんかは愛実が相手なら……というか人の彼氏とか関係なく、猛プッシュしてくるだろう。


「なら、髪の毛切らなきゃいいのに……」


 愛実が呟くと、俊が愛実の耳元に口を寄せる。


「愛実にドキドキして欲しくてだよ」

「だーかーら、それは止めなさい! 全く、女嫌いなんだか、女好きなんだかわかりゃしない」

「愛実にだけなのに……」


 俊の拗ねたような口調に、愛実の心臓がギュッとなる。


 この男、まじでたちが悪い!

 やっぱりイケメンなんて大嫌いだ!


「うるさい! うるさい! うるさい! もう、教室行くよ」


 愛実は、頑なに騙されるもんかと唇をきつく結んで歩き出す。その耳は真っ赤になっていて、俊はそんな愛実を見て満足そうに微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る