#25 名産品をたっぷり使いましょう
流石、城の厨房。カーシーが開けた大きな食料庫と冷暗庫には、新鮮な食材がぎっしりと詰まっていた。綺麗なピンクや赤色の肉に、活き活きとした眼をした魚、パリッと張りのある野菜。
どれもこれも王都で栽培、飼育されているものであるが、各地の名産品である。畑のものは土を、海のものは海水を運び込んで養殖していると聞いている。
「凄いっすね」
「国王陛下ご家族のお食事は勿論、この城に勤める者の食事もここで作りますからな。全員住み込みですしなぁ。ですのでこの量なんですわ」
「そうなんすね」
「今日は城勤め全員分の夕飯も作ってくださると聞いとります。お好きなだけお使いください。足りないものがあれば言ってくれれば、すぐに調達しますのでな」
「ありがとうございます」
サミエルは食料庫を見渡し、玉葱、人参、セロリ、しょうが、黒の粒胡椒、ローリエを取り出し、冷暗庫からは鶏がらを取り出す。
鶏がらを綺麗に洗い、鍋へ。そこにざく切りにした玉葱と人参、セロリを敷き詰める様に入れ、水をひたひたに加えて、中火に掛ける。
冷暗庫を開け、トマトを取り出す。食材庫からは玉葱とにんにくを。
玉葱とにんにくは
鍋にオリーブオイルを引き、弱火でにんにくを炒める。香りが立ってきたら玉葱を入れ、じっくりと炒めて行く。
玉葱が透明になり甘い香りがして来たら、トマトを入れて煮込んで行く。火は弱火のままで。
その頃には鶏がらと野菜の鍋がくつくつと沸いて来るので、火を弱め、出た
さて次。食料庫から玉葱、冷暗庫から牛のロース肉とバラ肉、豚のロース肉とバラ肉、卵、牛乳を出す。
「すいません、パンはありますか? パン粉が欲しいんです。それと牛と豚を挽き肉にしたいんですが」
サミエルの台詞に、カーシーとデーヴがてきぱきと動く。ルイジは相変わらず不機嫌な表情で、腕を組んでそっぽを向いていた。
「はいはい、
「挽き肉にはこちらの機械をお使いください。上からお肉を入れていただいて、取っ手を回したら下から挽き肉が出て来る、単純な造りです」
「ありがとうございます」
パンを
卵は割って軽く解しておく。ナツメグは粉のものを用意して。玉葱の
挽き肉の機械に牛と豚の肉を入れて取っ手を回すと、大きなボウルに細かく切断された肉が落ちて来る。赤身と脂身をバランス良く混ぜるのがポイントだ。
そこに塩を入れて、粘りが出るまでしっかりと
「さて、と」
大きな鉄板に火を点ける。大人数分の調理をする必要がある厨房なので、焼いたり炒めたりするには、フライパンより鉄板の方が効率的なのだろう。サミエルにしても助かる。
鉄板にオリーブオイルを引き、
さて、それを焼いている間に。
鶏がらの鍋を見ると、また灰汁が少し出ていたので取ってやる。味見をすると、しっかりとエキスが抽出されていた。
それを
肉種の片面が焼けたので、手際良く返して、もう片面も焼いて。
そうして焼き上がった肉種を、トマトの鍋に入れて煮込んで行く。
次に、食料庫からマッシュルームとしめじ、グリンピースを出す。
マッシュルームは厚めにスライス、しめじは石突きを切り落として小房に分け、グリンピースは
そこに隠し味の
さて、その間に2品目に取り掛かる。
食料庫から出した人参は皮ごと擦り下ろして行く。玉葱も同様に。
そこに塩と蜂蜜、白ワインビネガー、オリーブオイルを入れ、泡立て器でしっかりと混ぜて行く。
白ワインビネガーとオリーブオイルが
玉葱はスライスして、バットに広げ、使う直前まで冷暗庫に入れておく。
フリルレタスは千切って冷水に浸けておく。
次に冷暗庫から取り出したのは雄の鮭と鯛。手早く
肉種を入れたトマトの鍋を仕上げる。塩と胡椒、砂糖で味を整える。
さて、
鶏がらを取り出し、残った野菜類をオリーブオイルを引いたフライパンに入れて炒めて行く。野菜はすっかりと柔らかくなっているので、簡単に潰れる。
そこに牛の挽き肉を入れ、ぽろぽろになるまで良く炒める。そこにブレンドしたカレースパイスを入れて香りが立つまで炒めて。
赤ワインを入れてしっかりと煮詰め、ざく切りしたトマトを加え、更に煮詰めて行く。
仕上げに塩と胡椒で味を整え、隠し味に少量のカカオパウダー。
これで、一通りの準備は完了である。サミエルは腰に手を当てて、ふぅと息を吐いた。
王族が口にするものを作るのだから、多少は緊張するものかと思ったが、始めてしまえばいつも通りだった。
「サミエルさん、出来上がりですかな?」
「凄かったですね。とても効率が良くて手捌きも素晴らしい。本当に味覚の能力なのが不思議です。まるで料理の能力者並みです」
調理中のサミエルの動きを熱心に見つめていたカーシーとデーヴが、感心した様子で口を開いた。
本当は料理の能力も併せ持つサミエルだが、口外しないと決めている。
「はいっす。あ、このドライカレーは出汁殻から作ったんすけど」
最後に仕上がった鍋を指し示す。
「捨てるの勿体無いっすからね。良かったら勤めてる人たちの賄いにでもしてください」
「それは助かりますなぁ。と言う事は、少し味見をさせていただいても?」
「ええ、勿論良いっすよ」
言うと、ふたりはいそいそとスプーンを用意し、わくわくした表情で鍋から直接掬い、まずは香りを確かめる。
「ふんふん、これは本当に良い香りですな」
「確かに。ではいただきましょう」
同時に口に入れる。その瞬間、ふたりは眼を見開いた。
「これは凄い……! 本当に、本当にサミエルさんは味覚の能力者なんですかな? 料理じゃ無く?」
「そう疑いたくもなりますね……! スパイシーで旨味とコクが凄い。味付けも絶妙で。出汁殻から作ったとは思えませんね!」
「ほらルイジ、お前も味見をさせてもらうが良い」
カーシーがルイジを手招きするが、ルイジは結局機嫌を直す事も無く、顔を
ふたりが
「あの、サミエルさま、恐れ入りますが、わたくしたちにも味見をさせていただけませんか。厨房中良い香りが漂っていて、もう何と申しましたら良いのか」
そう言いながらキャスパはごくりと喉を鳴らす。サミエルは「勿論」と小さく笑う。
カーシーからスプーンを受け取ったキャスパは、ふたりに
「美味しいですね! これは本当に凄く美味しいです! 毎日いただくカーシーさんたちのお料理も本当にとても美味しいのですが、これは、その、どうしましょう!」
すっかりと興奮してしまって、
しかしキャスパはふと何かに気付いた様に、不安げな表情になった。
「これは大変な事になるかも知れません。このレベルのお食事を国王陛下がされるとなりますと、これから先……どうしたものでしょうか……」
キャスパが言うと、カーシーたちは「ああ……」と眼を細める。
サミエルとマロだけが意味が分からず、眼を見合わせて首を傾げた。
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