第46話

 玄関から中へ入ると、無駄に広い玄関ホールがあり、そこからリビングとダイニングが見え、男性と女性が座っている。


 女性は母親だったので、食事をしているのが父親だろう。


『今日、雪翔が熱を出して入院したって連絡が来たわ』


『一応行っておいた方がいいんじゃ無いのか?』


『嫌よ。それにもう断ったわ……折角離れられたのに、また会うなんて……あなたが行ってよ』


『俺は仕事だ。それに家賃も払ってるし、生活費として毎月10万使えるように、三年分まとめて雪翔の口座に入れてあるし、余分に入れたから高校卒業したら勝手にアパートでも借りて何とかしていくだろう?』


『後は制服代と授業料くらいでしょう?家が建って、あの子を追い出す口実も見つかったのに、本当面倒だわ』


『だが、あまりおかしいと思われても不味いだろう?俺達が捨てたなんてことがバレたら、会社の信用も無くなる』


『分かったわ。明日にでも見てくるわよ。その時に入院費もある程度渡してくればいいんでしょ!』


『多く包めばあの下宿屋の管理人も文句は言わんだろう』


『明日の朝行ってすぐ帰ってくるから……』


「__捨てた?あれは術でこちらに来るように仕向けたはず……」


「冬弥様?」


「いえ、ありがとうございました。少し横になって葉狐たちの治療を受けてから帰ってください。私はちょっと売店にでも行ってきます」


 部屋を出て廊下を歩く……


 売店と言っても夜なので自販機が並んでいる前に置いてある椅子に腰をかけて、めったに飲まないコーヒーを飲みながら考える。


 転勤ではなかった。

 下の子はまだ小さいから学校が変わっても平気という事か?

 家は建てたが、雪翔は邪魔だった。

 何故?


 見たものをそのまま頭で箇条書きにして行くが、結論は『捨てられた』にしかたどり着かない。


 お金を払っておけば良いだろうと、下宿屋を見てこちらを騙したかと思うとふつふつと怒りが湧いてくる。


「親のふりしていても、見捨てたのならば親じゃぁ無い!」


 姿を消し、残りの三社を周って周りの小さな社の狐を守ることを決定させ、祭りまでに東西南北揃えてほしいと頼んで、自分のエリアの狐のところを回って話をつけ、一日で作業を終わらせる。


 疲れはするが、今しておかないとと思い、従わないものは力でと思っていたが、みんな状況は把握しているらしく、社が守ってもらえるならとすぐに良い返事が来たのはありがたかった。


 途中社に寄って鳥居を見上げ、渋々街へと向かう。


 一軒のバーの前につき、バーテンに居るか?と聞くと、客はいないらしく奥へと通される。


「何だ?また来るとは珍しいな。顔が怖いぞ?」


「結月さんの力を借りに来ました。診てほしい子供がいます」


「人の子か?」


 ええ、と一言言うと目の色が変わったので、全てを話す。


 こういったことで嘘をついても見破られるのが分かっているので、嘘はつかない方がいい。


 全てを話すと、自分以上に怒っているのがわかる。


「連れて行け。ユーリ、万能薬に熱冷まし入れてきてくれ。それとは別に点滴も二つ用意してくれ」


「畏まりました」


 ユーリが用意しに行くのを見てから結月が口を開く。


「私達の世界でもお前達や人間界とあまり変わらないところがある。魔物に襲われ孤児になったものは仕方ないが、それ以外で見捨てる事は幻界では重い罪になるし、私はそういった事は嫌いなんだ。それにその子供の能力にも興味がある。その親はどうするつもりだ?」


「狐の祟をと言いたいところですがねぇ、まずは色々聞き出そうと思ってますよ?それに雪翔は知っていたかも知れませんしねぇ……」


「そんな子供が知っていて、わざと捨てられたと言うのか?」


「そんな気がするんですよ。聡い子ですし、我等に近い力であれば、私が引き取ってもいいんですが」


「どう見ている?」


「あの子はイタコ家系です。隔世遺伝と思うのですが、妖力とは違う術を使います。本人は全く気づいていないようですけどねぇ」


「私達側か?」


「それが分かれば来てませんよ」


 用意ができたと言うので、ユーリも連れて病院に行き、すぐに点滴に結月の薬を混ぜる。


「熱はこれで徐々に下がる。少し探っていいか?」


「どうぞ」


 結月がきてから、隅でビクビクしている三匹にシーッと指を立てると、ブンブンと首を縦に振り、気をつけをして壁に立っている。

 立たされた生徒のようだなと思いながらも、大人しくしていてくれるならばそれでいい。


「おい、この子はアレだ!力の暴走で熱が出ただけだ。すぐに意識は戻るが暫く寝かせていろ。それにしても分からんな……」


「何がです?」


「もうちょっと待ってくれ。ユーリ、中に入る。サポートしてくれ」


「ですが人間の子ですよ?」


「奏太の時と同じだ。少しだけにしておくから大丈夫」


 胸に手を置いたまま意識だけ飛ばしたのだろう。すぐにユーリが椅子に座らせ、体を支えて倒れないようにして手を離す。


「この椅子にどうぞ」


「ありがとうございます」


「所で、奏太とは?人間ですか?」


「最初は。後で姫の異父兄弟とわかりましたが」


「そうですか……他にも雪翔のような事例の件はありました?」


「いえ、無いです。ですが、姫が興味を持ったのならば必ずなにか見つけてくれるはずです」


「ですよねぇ」


「子供の事ですが、姫が暴走しないようにしますが、その親はいつくるのか分かりますか?」


「朝としか情報がないんです。早く来てさっさと帰ると思いますけど、その前に本音を聞き出したいと思ってます」


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