第14話 決着!エクリプスVS.ブラックライダー!
「彩さん」
エドは逃げる最中、彩へ連絡を入れる。
『なに?』
彩は基地には居ない。別行動だ。今動かせる手持ちの中では、彩に動いてもらうしか無い。アビスを増やせると言っても下位アビスのみで、有能なハーフアビスでは無いからだ。
「僕はブラックライダーに目を付けられた。何か恨みを買っているようだ。ワープ能力者に追われて見付かったということは、もう逃げられない。アークシャインを殺している暇さえ無くなってしまった」
『それで?』
彩は動揺しない。そんな事態は想定済みだからだ。冷静に、エドの言葉を待つ。
「……そっちの首尾はどうかな?」
『万全だね。パニピュアが基地へワープしたら伝えて。それで実行だよ』
「……うん。僕もなるべく時間を稼ぐよ。基地を抑えられた以上、ワープはもう一度きりだけど、できるだけアークシャインを引き付ける」
『……さよなら、だね?』
「うん。僕には戦闘能力はあまり無い。パニピュアとブラックライダー……ワープ使いの天敵が沢山居る。クリアアビスは戦況を見誤った。アークシャインに一本取られたね」
『……えっくん』
「なんだい」
『ありがとうね。私、頑張るね』
「……うん。彩さん。君なら、きっとアビスを導ける」
切ない声が漏れそうになる。通信は、彩の方から切った。それは彼女なりの気遣いであった。
――
「やれやれ、15年の人生か。まあ好きな人ができただけ良しとするか」
エドは振り返る。そこには既に、ブラックライダーの影があった。
「逃がさねえよ。逃がせば怪人被害は拡大する一方だ」
「……その気迫を見るに、僕を狙うのはそれだけの理由じゃない気がするけど」
「……覚えてねえのか。俺を」
「初対面だろう?」
「……そうか」
もはや、ブラックライダーに取ってはどうでも良かった。自分をこんな目に遭わせた『エクリプス』を討てれば。
「さあ覚悟しろ。手前の罪を教えてやる」
「僕は人間の法には関係無いから、罪は発生しないよ。人里を襲った熊と同じ。でも熊と違って覚悟はしてるけどね」
そう言いながら、エドはワープ装置へ飛び込んだ。
「待てっ!」
ブラックライダーも続く。
――
そこは、大都会だった。立ち並ぶ高層ビル群、整理された道路、地下に広がる線路。
そして道行く人の群れ。
「!」
ブラックライダーが到着すると、既に周りを下位アビスに囲まれていた。
「どけぇ!」
一蹴。それだけで、衝撃波と風圧によりたちまちアビス達は砕け散った。
「エクリプス!」
「さあ戦争だ。多対一の真骨頂だな、ブラックライダー」
エドは全身から、アビス粒子を放出した。それはこの都市を覆い尽くし、人以外のあらゆる生命をアビスに変える。
「ここで君を討てれば御の字。できなくても都市機能は崩壊だ。因みにここは……合衆国の大都市だ」
エドはアビスの群れの中に消えた。
ブラックライダーへ、無数の爪と牙が迫る。物量に任せたその攻撃は、たとえ下位アビスと言えど凄まじい圧力になる。
「邪魔だぁぁあ!!」
「!」
ブラックライダーは叫んだ。魂からの、渾身の怒りを込めて。
それが何を意味するか。
――
誤算は、彼らアビス側が、ブラックライダーの正体を突き止められなかったことだろう。『アークシャインが作り出した戦士のひとり』と解釈していた。シャインジャーの亜種だと。
「……はあ!?」
エドは驚愕した。
ある意味では仕方の無いことかも知れない。ブラックライダーがアークシャインと別行動を取るようになっても、きっちりと怪人の所まで正確にワープしていたのだから。
ブラックライダーは、同族の居場所が分かる。正確には格上であるクリアアビスには効かないが、活性状態のハーフアビスと下位アビスの居場所は、アーシャ同様世界中どこに居ても把握できた。そしてエクリプス、アビス側は、ブラックライダーの『精神干渉を受けない』という例外により、彼の中のアビス粒子を見抜けなかった。
「……なんで……?」
今にも襲いかかる筈の下位アビス達は、時間が停まったかのように、その場から動かない。固まるアビス達を掻き分け、無傷のブラックライダーが現れる。
ここへ来て……一帯の下位アビスの精神支配権が、エドからブラックライダーへ渡った。
「……そのまま固まってろ。後で全員蹴り殺してやるから」
「!!」
――
クラウチングスタート。それは両手の指を地面に突き立て、足の位置は一足長半の位置に置く。そして前足側の膝を立て、後ろ足側の膝を地面につける。
そこから腰を上げて静止し、『その瞬間』を待つ。
前傾姿勢。前へ進むことしか考えていない。見据えるゴールは、憎き仇。
直後、足元が爆発したような衝撃を放ち、ブラックライダーは駆け出した。
走り去った跡に、炎の道が出来る。音速の壁を易々と突破した彼は、一直線にエドへ向かう。『変身』後の彼のスピードは、変身前の倍近い速度を叩き出す。
「……!」
エドはそれでも、次々にアビスを作り、けしかける。だが最早意味は無い。ブラックライダーの直線上に出た瞬間に弾き飛ばされ、砕かれていく。
「エクリプスぅぅう!!」
「……くっそ。ここまでか……」
エドは最後に悔しそうに苦笑いした。
怒りの火の矢がエドを貫いた。衝撃波が巻き起こり、周辺の建物を微塵にしていく。
「……」
この日、大国の都市が壊滅した。それは世界にとてつもない影響を及ぼすだろう。しかし。
その変わり、『エクリプスの恐怖』は幕を閉じた。
「…………」
粉塵舞う瓦礫の都市から空を見上げた。仮面を外した彼の赤い眼から、感情の滴が流れ出す。
ブラックライダーの復讐は、果たされた。
――
同時刻。
彩は病院に居た。池上太陽を殺すためである。
「…………」
もうすぐ陽が暮れる。窓から差す夕陽を背に、彩は包丁を取り出した。
いくらシャインジャーのリーダーと言えど、変身前はただの人間だ。これを突き刺すだけで死ぬ。
「……おにぃによろしくね」
現在、全てのシャインジャーは出払っている。各地に沸いたアビスと戦っている。アーシャは撹乱と言っていたが、実際に戦力を分散してしまっていたのはアークシャイン側であった。
各個撃破。ネットにすら調べれば簡単に載っている彼らの居場所。狙ってくれと言わんばかりだ。姿も家も、何もかもバレている。変身前はただの人間。常に警戒はしているだろう。しかし、彼らには人間としての社会生活がある。油断は確実にある。しかしこの瞬間の暗殺の為に、今までは狙わないでいた。確実に、池上太陽という正義の『シンボル』を殺すために。
エクリプスすら、囮にして。寧ろ今まで何故狙わなかったのかと思うほど。
あっさりと、包丁を突き立てた。
――人物紹介①――
・"日蝕(エクリプス)"
本名エドワード・ジェラード
イギリス出身
死ぬことを本気で覚悟していることを除けば、至って平凡と呼べる少年。人並みに優しく、人並みにやんちゃで、人並みにエロい。
普通に可愛いお姉さんである彩に、ごく普通に恋愛感情を抱いていた。告白はできなかった。
エクリプスの感染能力はとても稀少で、侵略作戦上非常に重要な存在。彩が居なければ、本来は優先的に保護すべきアビス。
享年15歳。
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