第65話『够朋友gòu péngyou』

ここは世田谷豪徳寺・65(さつき編)

『够朋友gòu péngyou』





「够朋友gòu péngyou」


 トイレから連れ出されると、すぐに、この言葉をかけられた。

 トイレの前に二人の女子高生がいることが分かった。

 別の二人の女は、不思議な顔した。


――確保しろ!――


 小さな声がした。


 脇の死角から若いOL風が現れて、あっという間に二人の女を掴まえた。二人の女子高生は女二人の口に錠剤のようなものを放り込んで、見物人達の中に紛れた。

 二人の女は、口から白い泡を吹きだして、ぐったりとした。


「脱水症やわ、救急車呼んで!」


 女二人を確保した一人が、そう言うとあたしは、いっしょに地上に運ばれた。


 大阪の救急隊って、手回しいい……ぼんやりした頭で、そう思った。救急車に赤いラインも赤色灯も無いことも不思議にも思わなかった。


 ボックスカーは、そのまま走り出した。女二人は車の中で手錠をはめられそうになったが、リーダーと思われる男が制止した。


「持ち物を調べろ」

「外交官のパスを持ってます」

「じゃ、やっぱり二人は脱水症だ。B地点に救急車。スマホのデータはコピーしとけ」


 しばらくすると、本物の救急車と出くわし、二人の女は救急患者として救急車に乗せられていってしまった。


「あの二人はC国の工作員。ただ外交官の資格をもってるので、これ以上の拘束ができないの。さつきさんは、このままS駐屯地に送らせてもらうわね」


 サブリーダーと思われる女性が、そう言った。


「さっきの女子高生は、なんと言ったんですか?」


 やっと、質問する余裕がでてきた。


「够朋友、ゴーパンヨー。『友だち甲斐があるわね』 おかげで気付かれずに、あの二人の脇にまわれた」

「なんで、高校生の女の子が?」

「ハハ、ああ見えてもあたしの先輩。当然年上だけど」


 S駐屯地に着くと、簡素で小振りな隊舎に連れて行かれた。


「途中大変な目に遭われたようですね。警備が後手になって申し訳ない」


 一佐の階級章を付けたオジサンが頭を下げた。


「これって、どういうことなんでしょう?」

「全部話してあげた方がいいでしょう。予想外の展開になってきましたから」


 司令の札が付いたデスクに座っている別の一佐が、優しく言った。


「佐倉さつきさん。あなたを日本によこしたのは大学じゃないんです。陸上自衛隊です」


 理解ができなかった。兄の惣一は自衛隊でも海上自衛隊。陸上はエールフランスの飛行機でスペクタクルをいっしょに体験したタクミと小林一佐がいるだけだ。二人とも、あれ以来会ってもいない。


「さくらさん、あなた、エールフランスの事故以来、ときどきレオタール三曹と小林一佐のことが頭に浮かぶようになったでしょう?」

「あ、はい……」


 顔が赤くなってきた。


「あの事故では、レオタール君が操縦し、さくらさんと小林一佐が、それを見守った。そして、レオタール君は初めての操縦ながら無事に機体を空港に着陸させた」

「はい、大したものだと思いました。お父さんのシミュレーターで経験はあったみたいですが、あんなに無事にいけるとは思わなかったです。あたしは、ただ彼の肩に手を載せて無事を祈っていただけです」

「それなんですよ。あの危機を三人で乗り切ったことで、さつきさんはレオタール君と心が通じるようになってしまったんです。一種のテレパシーです」

「え、そうなんですか……!?」

「自分は自衛隊で、そういう心理的な特殊能力を研究するところにおります。その経験から、さつきさんの能力は本物だと確信しました。ただし、読めるのはレオタール君の思念だけですが」


 驚きの中に、かすかに喜びが混じっていることにうろたえた。


「動揺されるのも無理はない。ただ、わたしたちは困っています」

「え……」

「レオタール君は、四ヵ国語に通じ電子機器についても詳しいやつで、専門的な通訳としては実に頼りになります。もうお分かりかと思うんですが、彼はその職責上、機密に触れることが多い」

「はい……」

「それが、あなたの頭の中にも入ってくるんです」

「え、そんな自覚ありません。時々タクミ君のことが頭に浮かんでくるのは確かですけど」

「さつきさん。あなたの頭脳はハッキングされているんです」


 え、ええ…………!?


 あたしは声も出なかった……。

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