第56話《あかぎ奇譚・3》
ここは世田谷豪徳寺・56(惣一編)
《あかぎ奇譚・3》
案の定、あかぎは南西諸島海域への哨戒任務に回された。
このことの意味は大きい。海自最大最新の護衛艦を哨戒任務に就かせると言うことは、我が国の「本気度」のレベルを一段階上げたことになる。当然周辺諸国を刺激する。まあ、それも任務なのだから仕方がない。
しかし、政府の煮え切らない姿勢が、ここでも出てしまった。「あかぎ」は空母型の護衛艦で、現状ではヘリコプターしか積んでいないが、将来的にはオスプレイやF35の搭載も視野に入れた船で、飛行甲板の材質や強度などのスペックは極秘になっている。
この極秘こそが、周辺諸国には脅威なのである。種子島の南海上で、第七艦隊と合流して、ヘリとオスプレイの離発着を何度かやった。現実にはやっただけで、べつに米軍機が「あかぎ」に移動してきたわけではない。C国の監視衛星などがこれを見ている。C国は、この移動のフリを恐怖心から過大に評価する。ここに狙いがある。つい先日アメリカの大統領が「尖閣諸島は明確に、日米安保の保証の中にある」と言ったばかりである。C国としては神経質にならざるを得ない。
しかし「あかぎ」の行動は単艦なのである。普通空母が移動するときには対空対潜能力の優れた駆逐艦数隻を付けるのが常識で、アメリカならばイージス艦を必ず随伴させる。
でも、それをやれば、見てくれは機動部隊になってしまい刺激しすぎるという判断である。正直素人の心配である。「あかぎ」単艦での行動の方が、「あかぎ」にどれだけの能力や、搭載機があるか分からない状況では、誇大にその能力や意図を解釈される恐れがある。
案の定、黄海に入ったとたんにC国の哨戒機が頻繁に接触してくるようになった。Y-8DZが二機べったりとはりついている。これは日本の新聞社なども撮影「高まる南西諸島方面での緊張!」とかの記事になり、A新聞などはそのお先棒になることは目に見えていた。
脅威は潜水艦である。これは新聞社の飛行機からは見えない。米軍も「あかぎ」もC国の潜水艦の接触には気が付いているが、詳細は公表できない。こちらの対潜能力知られてしまうからである。「潜水艦も展開している模様」としか公表はできない。
もう一つ怖いのは、漁船などの小型船舶に擬装した監視というよりは妨害船である。これらの小型船舶の多くは木造小型で、水上レーダーにもかかりにくい。半分捨て身で接触されると沈没させてしまう可能性もあり、そうなると、「あかぎ」がC国の漁船を沈めたと騒がれるのは目に見えている。
運の悪いことに、濃霧と言っていい霧が立ちこめ始めた……。
「対水上監視を厳となせ」
艦長の警戒命令が出た。本来の監視要員以外の者も、哨戒任務に就く。
信じられないだろうが、この21世紀の最新護衛艦でも、最後の哨戒は視認によるものである。簡単に言えば双眼鏡で、ひたすら海を見続けるという百年前の日露戦争と変わらない方法によっている。
「右舷後方五時より大型船接近しつつあり!」
杉野曹長が信じられないことを叫んだ。
わたしは直後双眼鏡を向けた……。
確かに五海里の彼方で、緑と赤の幻灯が光っているのが見える。それが次第に近づいてくる。本艦は15ノットの巡航速度だが、相手は20ノットは出しているだろう。商船としては高速と言える。
さらに驚いたことに、これだけの船がレーダーに写らないのである。ブリッジは混乱していた。
「対水上監視を倍にしろ、手空きの乗員は、上甲板で視認に努めよ!」
艦長の命令が艦内に響き、乗員の半分が右舷の最上甲板に集まった。
そして、それは、十分後には「あかぎ」の右舷後方に姿を現し、併走するようになった。
信じられないが、その船は……戦艦大和であった。
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