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 ――――夢を見た。

 女が私に、お願いがあるのです。と言った。

見知らぬ女だったが、見知った女だった。見知ったどころではなく、幾度も生死を共にした仲である。まあ、目が覚めてしまえば逢うことが叶わないので、現実ではもっぱら忘れられ続けているが。

それでも私にとっては、大切な仲間であった。ならば、聞き入れなければならない。君と私のなかではないか。何を遠慮することがあるのだね。

女はほっと息を漏らすと、後ろ手に持っていた赤い肉塊を私に差し出した。


願いというのは他でもありません。

コレを喰べて欲しいのです。


動脈するそれは、どうやら彼女のものであるらしかった。そういえば、赤を廻らせるポンプがないせいか、女はどこか青い。赤を抜いているから、代わりに青のポンプを入れているかのかもしえない、そう思った。


これは、君のかね?


確認のつもりで、再度尋ねる。女はフフと笑った。

 

ええ、私の心ノ臓。貴方に喰ろうて欲しいのです。

ブツと切って唐揚げにしようが、薄く切ってステーキにしようが。

何をしても構いませんから、どうかコレを喰ってください。


女はズイとそれを差し出す。ボタボタと赤いペンキが落ちて、消えていく。消えたソレは蒸発し、再度戻って零れおちる。絵具は有限なのだから、無限のサイクルを必要とする。全く人の身とは巧く出来ているモノだと感心しながら、私は確認を取った。それさえできれば私はアノ肉塊を喰べたっていいのだ。イヤさ、むしろ悦んで頂こうよ。何せ私は彼女をアイシテル。


私がソレを喰べれば、私は貴女を孕むことになるのですよ。

ええ。ええ。承知しております。

孕んでも、私はオトコでありますから。二度と貴女を外に出すことはできませんよ。

ええ、ええ。理解しております。

貴女を孕んだ私が死ねば、私が孕んだ貴女諸共死ぬことになりますよ。

ええ、ええ。存じ上げております。


――――私が喰ろうて、いいのですね?

――――貴方が、喰ろうてくださいな。


 その声を合図に、私は獣ののように女の手から肉塊を奪い取ると、躊躇いも躊躇もなく齧りついた。

 ああ、と。色を含んだ女の声があがる。口を満たすその肉はまるでゴムのようにぶよぶよしており、喉を潤すそのペンキはドロついていて、いやに絡まる。しかし、なぜだろう。それが女のものだと思うと、極上の甘美が私を襲う。喰い進めるのがもったいないと思うほどに。

 チラリと女を見れば、頬を染め身悶えながら美しい涙をたたえた瞳でこちらを見ている女と目が合う。


 Wa ta si wo, ta be te.


 恍惚な笑みを浮かべて、女は強請る。まるで閨での出来事のように色めいたその言葉に、まさか抗えるはずもない。

 一口。

 一口。

一口。

 一口。

 死を意味し幸を暗示させる数だけを口に含み、残る一口。

 赤黒い闇に埋まる寸前に、欠片に浮かんだ唇が囁いた。


 ――――アイシテru





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