第26話 希望の世界7 クリームパスタを食べる生活
えぬは希望の街ホルプでの生活にも慣れてきた。街に再び来てから1週間ほどが経っただろうか。確かに数えていたわけではないので定かではない。
この街では何不自由なく暮らせる。相変わらず宿には無料で泊まっている。食べ物も美味しい。特に、広場の路地に入った小さなレストランの海老の入ったクリームパスタは毎日食べても飽きない。実際、2日に1度は食べている。お金はいずれ労働に着くような雰囲気や、流れや、何か運命めいたものを感じたときに働いて稼いで払えばよいとえぬは思っているので、そこでも特に払っていない。店主もそれで納得している。それどころか、未来にまとめて貰えるであろう料理代に期待を膨らませているようなことまで言っている。
ワンピースをよく着ているマヤとは毎日会っている。マヤは美容師になるという夢をもっていて、マネキンに向かってハサミで髪を切る練習をよくしている。えぬも1度マヤに髪を切ってもらった。腰まで届くような髪はそよ風に乗って浮くような柔らかなショートカットになった。
「いつか、広場の近くでお花がいっぱいの美容室を開きたいの。その時は、えぬも来てね」
そう言われてえぬは笑顔でこくこくと頷いた。唇が緩んだまま締まりきらない、だらしのない笑みだった。
今までのことが嘘のよう。世界はきらきらはしてないけど、ほんのりぼやけた光でいっぱい。何だかお風呂に浮かんでいるみたい。このまま。ずぅっとこのまま。
えぬは、次の日も、また次の日もクリームパスタを食べ、ふかふかの布団に寝て、マヤと会った。もちろんケイたちや世界を歩くことを忘れてはいない。忘れてはいないけど、希望として残しているだけ。えぬはそう考えていた。希望があれば、明日につながる。明日に繋がればまた生きていける。今日はゆったりと。明日もゆったりと。明日が希望。明日があるから大丈夫。
まるでしゃぼん玉の中で浮いているよう。ずぅっとこのまま。
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