第4話 渦の世界3
鼻の潰れた少年の後をついていくと、先ほどの水際からうってかわって蔦の生い茂る湿地へと景色が変わっていった。
「空吸いっていったい何?」
えぬは不安定な地面に転ばないようにしながら聞いた。
「空吸い、知らないの。信じられない。今までよく生きてこれたね。別世界からきたみたい」
その通りだったがいちいち説明するのも面倒なので、えぬはなにも答えなかった。
「渦が月に一度、大きくなるんだ。近くのものを何でも吸い込む。有機物も無機物も、実体のあるものもそうでないものも。身体も、心でさえも」
心でさえも、未来でさえも。えぬは心の中で反復とちょっとの付け加えをした。
「今日は渦の動きも奇妙だった。縮小と拡大の頻度が多かった。そろそろくる証拠だよ」
「吸われてしまったら、どうなるの」
「行き先は誰もわからない。でもどこかへ行ってしまうんだ。人の形を残したまま、ね。きっと生きているんだ。だから供養もできない。でも、二度と会うことはできない。それが一番怖いと思わないかい」
鼻の潰れた少年は足元の小石を蹴り飛ばした。
「人間、怖いのは恐れを抱く存在でなく、結局、未知なんだよ」
えぬは何かを思い出そうとした。心の奥にしまったままのもの。捨てようと思っても捨てられず、引き出しの奥にしまってある昔の服のような。
空を引っ張るような音が聞こえた。地面が引っ張られ、木々は歪み、全ての蔦が真っ直ぐと一点を目指すように伸び、引きちぎられる。
「空吸いだあ!」
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