第32話人外なのかを問う者、痛みを訴える者

 カリオストロと名乗った老婆は携える黄金の鍔無し剣の切っ先を床に突き立てた。


「“紡ぎ手”は私が貰ってゆくよッ!」

 堂々と強奪宣言。駅校内に響き渡る。


 同じくエイジの叫びも駅構内に轟いた。「させるものかぁーッ!」


 跳躍するエイジの高々と掲げられた右足が白銀色に輝く。


「うぅっ、眩しッ」

 白銀色の輝きにカリオストロの目が眩んだ。あまりの眩しさに左手で光を遮る。


 ズゥンと鈍い音を立てて、かざした左手共々彼女の肩に“白銀の刃”が炸裂!衝撃のあまり、カリオストロは地に膝を着けた。


 不意打ちとも言える先制攻撃を目の当たりにした昌樹は思わず呟く。

「アイツ…お年寄相手に容赦無ぇなぁ…」


 光りモノを持っているとはいえ、高齢者に対していきなり蹴りを繰り出すのは如何なものか…。倫理的にも画的に非常にマズイ光景。


 しかし!


「き、貴様、エレメンツじゃないのか!?」

 高齢者に容赦ない蹴りを繰り出した当人エイジが困惑している。


 カリオストロは膝を着いた体勢から地に突き立てた剣を引き抜き、すかさずエイジへ突きを繰り出した。


 隙を突いての攻撃であったが、動作の多さからエイジは難なくこれを回避。…したつもりが。


 カリオストロの繰り出した突きは確かにエイジの左脇をすり抜けた。


 だが、エイジの左脇腹を中心に彼の衣服はズタズタに切り裂かれ、さらに数か所に斬り傷を被った。

 それは、まるで竜巻が横向きに発生して過ぎ去ったかのように。


「うぐぅ」

 呻き声を上げながらエイジの体は後方へと押し返された。


「何をしたんだ?あの婆さん」

 押し戻されるエイジからカリオストロへと昌樹の視線は移る。


「サンジェルマンめ、相も変わらず護衛のエレメンツはAgなのかい。長生きし過ぎて頭が回らなくなったのかねぇ。よくもまぁ毎度毎度同じ能力のエレメンツを付けてくれるもんだ」

 白銀の刃を受けた左肩を押さえながらカリオストロは立ち上がった。


「俺の白銀の刃が効かないだと?どうして、効かない?」

 問うエイジに。


「全く効いていない訳が無いだろうがッ!このガキ!年寄り相手にいきなり手加減無しに蹴りを入れやがって…。滅茶苦茶痛ぇじゃねぇか!鎖骨を折っていねぇだろうな?これ」


 エイジの攻撃は、全く効果ナシという訳でもなさそう。


「カリオストロ。今の攻撃は明らかにエレメンツの攻撃。人ならざる者の攻撃のはずだ。なのに、どうして俺の攻撃が効かない」


「くどいね。お前の放った蹴りは、とんでもなく痛いんだよ!老人虐待で訴えるぞ」


 これは堂々巡りになるな…。昌樹は二人のやりとりを見てそう思った。


「あの…カリオストロ。あんた、エイジのエレメンツを倒せる技を食らって、どうして平気でいられるんだ?」

 しょうがないので訊ねた。


「平気な訳があるかい!」


「だから!何で分子レベルで壊れないかを、さっきからエイジは訊いているんだよ!」


 確かにカリオストロは、そこらのただの高齢者と思って掛かると痛い目に遭う相手だというのは分かった。しかし、このやりとり、そこらの高齢者よりもタチだ悪いぞ。


 カリオストロは、ようやく痛む左肩から手を放した。

「最初に言っただろ。かつてAuオゥという名のエレメンツであったが、今はカリオストロと名乗っていると。つまり!私自身がカリオストロであり、オウなのだと」


「どゆこと??」

 説明を受けるも、昌樹にはサッパリ理解できない。


「お前、頭悪いな。二人が一人になったって言っているのだろうが!」


 その説明はオカシイぞ。そもそもエレメンツは人間の体の中から現れる者じゃないのか?

 首を傾げてしまう。


「だから、人間でありエレメンツだからこそ、こういう事も出来ると言っている」

 告げつつ、先程エイジを襲った剣を昌樹に向けて繰り出した。


 それは剣撃と呼ぶよりも、まさに刀身から繰り出される、横へと伸びる竜巻。


 距離は十分離れていたので躱すのは、さほど困難ではなかったのだが。


 コーン状に伸びた爪痕に昌樹は戦慄した。


「コイツ…手当たり次第に攻撃していやがる」

 自然の竜巻と同じく、向かう先にあるものは全て障害物とでも言わんかの如く、すべてを薙ぎ倒して突き進むつもりだ。


 カリオストロを危険な存在と見なした昌樹は、手にする警棒を強く握りしめた。

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